「妄想ふりかけお話ごはん」平井まさあき(男性ブランコ)第1回
1.「記念すべきたい1回目」
こんにちは。まずはちょっとした自己紹介をば。僕は男性ブランコという名のお笑いコンビの片割れ、平井まさあきと言います。芸人の端くれであります。小さい頃から僕は、端くれたくて端くれたくて仕方がありませんでした。きっかけは当時テレビで放送されていた「めちゃめちゃイケてる」通称「めちゃイケ」でした。めちゃイケメンバーの面白さに惹かれ、憧れ、そのメンバーに入りたくて、しかし自分自身は、果たしてめちゃめちゃイケてるのか、めちゃめちゃイケてないのか、自問自答する小学5年生の夏。めちゃめちゃイケてないのかもしれないと疑い始めた中学2年生の春。あ、めちゃめちゃイケてないやと気づき始めた高校3年生の冬。ああ、これもう、めちゃめちゃイケてないに違いないやと確信を得た大学4年生の秋。何の因果か自分がめちゃめちゃイケてないとはっきり自覚したこの秋に芸人の端くれになることを決心したのです。
そうして、13年前から芸人の端くれとして活動を開始しました。つまり芸歴と端く歴(端くれ歴ですかね)が丸13年です。フレッシュ若手とは言えず、かと言って、ナイスミドルな中堅さんというわけでもない、ましてや大御所の大御っしゃんなはずもない。そんな狭間な芸人の端くれでございます。嘘偽りのないちょっとした自己紹介を完遂いたしました。
今回、コラムというのでしょうか、エッセイというのでしょうか、この場所で色々書いていいという許可を得ましたので、色とりどりの色々を描いてみようと思います。こうして許可を得たからにはとってもエッシーなエッセイにしたいと意気込み咳き込んでおります。ごほ。
このエッセイでは僕の超個人的な普段のお話、そこにひとさじの妄想などをふりかけたものを書かせていただこうではないかと考えております。まさしく、〝妄想ふりかけお話ごはん〟といった塩梅です。上手にまさしくできていなかったらすみません。まだまだエッセイに不慣れな赤ちゃんであります。是非読者の皆さんにおかれましては、こんなエッセイ赤ちゃんを養育してもらえるとありがたいです。どうぞ今後ともよろしくお願いいたします、読母(どくぼ)さん。
さて、今回は記念すべき1回目の掲載であります。勝手に記念すべきをしてごめんなさい。記念すべきたいから記念すべかせてください。
どんなことを書いたらいいのかな、只今、頭の中をぐるぐるさせています。さながら、わたあめを作る機械の、あの、糸状の砂糖を箸でぐるぐる回して、絡めとるかのようになっています、思考インマイヘッド。
芸人としての活動、単独ライブについてはどうだろうか、趣味であるスキューバダイビングについてもいいなあ、好きな水族館、動物園に行った話、好きな音楽ライブに行った話、沖縄旅行に行った話、生まれて初めてキャニオニングをした話もいいのかもしれない。
こういった話題を連ねると充実した活動的人間であるかのように自分でも錯覚してしまいますが、そんなこともなく。もっとネロリっとした普段のどうしようもない冴えない人間話の方が多いのは自覚するところであります。
はてさてどうしたものか、どうしたものか、どうしたらいいのだろうか、うむむ。
おや、おかしいぞ、普通だと、こういう「はてさてどうしたものか」なんてことはただ頭の中で思うことであって、こうやって文字に起こしてはいけないのではないか、起こしてしまった以上お優しい読者の皆さんはこれをそのまま読んでくださっているのではないか。(まだ読んでいただいているという希望的楽観的観測のお話ですが)。
エッセイにしろ、何かしら文章を書く者は、何を書くかしっかり決めた上で、文字に起こさなければ、人目に触れさせてはいけないはずです。もしも、こんな文章を提出したら、編集者の方に怒られてしまいます。
編集者の方は、体長3メートルあって、全身毛むくじゃらで、頭に角が5本生えていて、目が5個あって、その腕は丸太ん棒ぐらい太くて、締切を守らない人は「締切を守らない人はこうだよねえ」と巨大な鉄製のバインダーで押し花よろしく押し人にされるのです。そしてそのぺっちゃんこ押し人を、溶けるまで舌の上に乗せて置くのです。嗚呼恐ろしや。
どうしてそんなことを言い切れるのか。簡単な話です。何を隠そう僕はすでにもう、ぺっちゃんこ押し人で大きな舌の上で寝ているからです。溶けるの待ちです。
罪状は、締切うんぬんの前に、記念すべきと豪語していたのに全く記念すべくことができなかったためです。致し方ありません。全て僕が悪いのです。編集の方は何も悪くありません。助けに来ようなんて思わないでください。もしも助けられたとしても僕はすでにぺっちゃんこです。薄さ1ミリもありません。それゆえ、微風でも飛ばされるわ、ポスターと間違われて丸められるわ、ポスターと間違われて壁に貼られるわ、ポスターと間違われてたくさん刷られるわ、散々です。
ですから僕なんて溶けてしまえばいいのです。溶けるのがお似合いなんです。ああ、なんだか眠たくなってきました。なんだか心地の良い眠りが待っているような気さえします。ああ、瞼が重い。このまま、僕は舌の上で……
う、眩しい……この光は……なんだ? まさか……
……みんな!? まさか、ここまで読んでくれていたのか!?
嗚呼、嗚呼……僕はなんて愚かだったんだ。自暴自棄になって、ただ舌の上で溶けるを待つだけだった。ここまでまだ読んでくれているみんながいたのに。なんて愚か者なのだろうか。
僕……書くよ。エッセイ……書くよ。
編集の方、僕はもうぺっちゃんこボディだけど、書かせてくれませんか、エッセイ。ぺっちゃんこだけどキーボードを打つことはできる。
もう一度チャンスをくれないか。こんなどうしようもない僕だけど、何度も諦めてしまう僕だけど、もう一度、もう一度書いてみるよ。
みんなありがとう。みんなのおかげだ。みんながいるから僕がいる。僕は生まれ変わったんだ。
ん? 編集の方、泣いてるの? ふふ、そんなに泣かないで、涙を拭って。5つも目があるし、1個1個の目が大きいものだから、涙量がすごいよ。ほら、これ、ハンカチ。あ、だめだ、見てよ、僕のハンカチぺっちゃんこだよ。これじゃあだめだね。え? ハンカチは元々ぺっちゃんこでしょって? はっはっは、ちげえねえ、はっはっは。さあ、編集の方、舌の上から降ろし……ジュッ(溶)。
※大変すみません、編集の方はとっても柔和で人当たりが良くてとんでもなく素敵な方です、すみません、嗚呼すみません、1回目なのにすみません。2回目無いかも。
平井まさあき[男性ブランコ]
1987年生まれ。兵庫県豊岡市出身。芸人。吉本興業所属。大阪NSC33期。2011年に浦井のりひろと「男性ブランコ」結成。2013年、第14回新人お笑い尼崎大賞受賞。2021年、キングオブコント準優勝。M-1グランプリ2022ファイナリスト。第8回上方漫才協会大賞特別賞受賞。趣味は水族館巡り、動物園巡り、博物館巡り。