週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.154 くまざわ書店営業推進部 飯田正人さん
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『なんで死体がスタジオに!?』
森 バジル
文藝春秋
きょうは最近読んだスリリングで面白い小説を紹介します。森バジル『なんで死体がスタジオに!?』という本です。『ノウイットオール』で第30回松本清張賞を受賞して単行本デビューした新鋭作家の最新作であります。『ノウイットオール』は同じひとつの街を舞台にした連作短編集、それも5つのお話を5つのジャンルで書き分けられている(!)というところがユニークで面白さが炸裂していましたよね!未読のかたはぜひそちらもチェックしてください。
本作の舞台はテレビ番組の収録現場。主人公は実力はあるが超ドジで有名なプロデューサー幸良涙香。物語は地上波全国二十八局ネット、ゴールデンタイムの生放送特番の本番開始もう40分前なのに、主要キャストの大御所俳優の勇崎恭吾がまだ来てないってまじですか!というところから始まります。
実はこの番組が成功するかどうかに進退がかかっている幸良P。そこへ編成局長(とっても偉い人ってこと)もやってきて局の面子がかかっているから勇崎がいなくても「元の通り」につなげるようにと強烈なプレッシャー。いっそう生きた心地がしなくなる幸良P。と、ここでドジを発動しうっかり幸良Pが倒してしまった段ボール箱から出てきたのがそう、勇崎恭吾の死体だったのです!さあみなさん、せーのでお願いします。
「なんで死体がスタジオにー!?」
さて、タイトルコールが済んだところで生放送も始まってしまいます。番組名は「ゴシップ人狼2024秋」。MCの冒頭の説明はこんな感じです。
この芸能界という村で生きる七人の〈語り手〉たちに、ルーレットで指名された順にゴシップエピソードを話していただきます。ゴシップは誰に関するものでもアリ。
ただし、この村にはわるーい嘘つきの人狼がいるのです。人狼は嘘のゴシップエピソードしか語りません。ですからここで語られたエピソードが本当なのか嘘なのかは最後までわかりませんのでご注意ください。
語り手たちは互いのエピソードを聞いて裏切り者を見つけ出し、追放することを目指します。勝利した語り手には賞金二百五十万円!
そういう番組だったのか、なんだかおっかないね。しかし、その裏でもっとおっかないことが起こっていました。勇崎の死体の胸には「ゴシップ人狼2024秋」の新しい台本が置かれていたのです。それには①放映を止めないこと、②所定のタイミングまで勇崎の死体を隠すこと、③新台本通りに番組を進行すること、という指示がありました。そして指示に失敗した場合、罰ゲームとしてスタジオの照明に仕掛けた爆弾を爆破するというのです。まじですか。そしてこれを読んだ幸良Pが何と言ったか!
「誰が殺したかは、OAが終わるまでは、ほっとく」
「この新台本通りにやれたら、おもしろいと思う」
かくして、前代未聞の生放送番組が始まるのです!読みどころはいくつもあるのですが、まずこのゴシップ人狼という番組それ自体。これをまずは楽しんでいただきたい(勇崎さんごめんね!)。合わせて、新しい台本はもともとの台本からどう変わったのだろうか、というところ。そして番組は続けるけれども誰が何のためにこんなことを?というところ。あと番組が人狼である以上、読んでいるわたしたちも誰をどこまで信じていいものやら、というところも油断がならず、ハラハラととても楽しく読めると思います!とてもオススメです!
ところで言い忘れました。
わたし、人狼です(ウォーン)。
あわせて読みたい本
『ナショナル・ストーリー・プロジェクトⅠ』
ポール・オースター編
新潮文庫
メディアに関係する実話本、ということで選びました。本書は先日亡くなったことが惜しまれるアメリカの大作家ポール・オースターが、ラジオ番組の朗読用に寄せられた市井の人びとの実話エピソードからよかったものを選んでまとめた本です。正直、えっどゆこと?という話もあるんですけど(このさいぶっちゃけようじゃないか)、「屋根裏で見つかった原稿」とかね、2ページだけどちょっといい話。眠るまえに読むのはどうだろう。
おすすめの小学館文庫
『緑陰深きところ』
遠田潤子
小学館文庫
遠田潤子作品を読んでいると、自分にも手にはいるかもしれなかった幸せな家庭があり、それを失って後悔と贖罪の日々を長らく過ごしてきたかのように錯覚してしまうんです。こわいことです!でも一年に一作品は読みたくなるとゆうか、それ以上摂取したら心が壊れてしまうんじゃないか。
飯田正人(いいだ・まさと)
書店バイヤーをしています。趣味は映画(年間100本映画館で観ます)。最近嬉しかったことは指導担当のお店が褒められていることと、自宅の台所の下にもうひとつ収納があると気づいたこと。