◎編集者コラム◎

『おたみ海舟 恋仲』植松三十里


おたみ海舟 恋仲


 この度、植松三十里さんの手になる新たな海舟像が生まれました。本作『おたみ海舟 恋仲』は、海舟の妻・おたみを主人公にして勝海舟と家族の生涯を描いていきます。

 おたみは、深川の辰巳芸者でした。ある日贔屓の席に伺うと、同席していた若者に「おきち(おたみの本名)、おきちだろう」と声を掛けられました。その若者が勝麟太郎(のちの海舟)だったのです。麟太郎はおたみより二歳年下で、幼馴染みだったのです。おたみは、麟太郎の母・お信の手習い塾に通っていました。そして、その頃麟太郎はおたみの命を救ったのです。

〈「俺が犬に玉をかまれたのを、覚えてるか」おたみも吹き出した。「忘れるもんですか。今だから笑えるけど、あの時は怖かった。袴が血だらけで。もう死ぬかと思いましたよ」〉

 お信の手習い塾に向かう途中、おたみは大きな犬に出くわしてしまったのです。怖くなって走り出すと、追いかけられ小袖の裾に食いつかれ、足がもつれて転んでしまいました。襲われると覚悟したときに、麟太郎が犬を背中から抑え込んでくれたおかげで犬がおたみから離れました。しかし暴れた犬が麟太郎の股間に食いつき、麟太郎は生死の境をさ迷うことになったのでした。

 おたみに惚れた麟太郎は、一緒になろうと口説いてきます。旗本との結婚など無理と諦めていたおたみの所には、麟太郎の父である小吉がやって来ます。父親に気に入られたものの、お信にはいい顔をされず、それでも海舟への愛情を確信したおたみは、夫婦になることを決心、溜池のあばら家に新居を構えます。

〈おたみは千鳥の飯茶碗を、ひとつずつ両手に取った。「これから二人で、ご飯、食べてくんだなあって思ったら、なんだか嬉しくなっちゃって」「変なやつ。飯茶碗が嬉しいのかよ」「男の人には、わからないかもしれないけれど」話しているうちに、急に喉元に熱いものがこみ上げた。涙がこらえきれない。(中略)「こんな日が」声がくぐもる。「私にも、来るなんて」〉

 麟太郎とおたみは極貧生活を切り抜け、麟太郎は歴史の表舞台に登場するようになります。お信との嫁姑のこと、生まれてくる子どものこと、妹のお順と夫となる佐久間象山のことなど、さまざまなドラマが続きます。二作目も、進行中! どうぞご期待下さい。

──『おたみ海舟 恋仲』担当者より