◎編集者コラム◎ 『牙 アフリカゾウの「密猟組織」を追って』三浦英之

◎編集者コラム◎

『牙 アフリカゾウの「密猟組織」を追って』三浦英之


牙 文庫の写真

 幼い頃、動物園で誰しもが見たことがあるアフリカゾウが、絶滅の危機に瀕しているなんて――。しかも、その原因が密猟組織による虐殺だなんて――。恥ずかしながら、本書を担当するまで、私もまったく考えたこともありませんでしたが、野生のゾウは十数年以内に絶滅すると言われているのです。

 なぜ密猟組織は、アフリカゾウを虐殺するのか。それは、印鑑やアクセサリーにするために「象牙」の需要が尽きないからです。密猟、虐殺と聞けば遠いアフリカで起きている他人事のようにも聞こえるかもしれませんが、実は象牙印鑑を重宝している私たち日本人、日本社会の問題でもあります。

 文庫版に先駆けて2019年5月に単行本が発売された際、多くの読者から「日本人の問題なんだ」「決して他人事じゃないんだ」という反響をいただきました。そうした意味で、日本の多くの読者にとって、何か大きな〝気づき〟が得られるのではないかと思います。

 そして本書は、綿密な取材をもとに、さらにショッキングな事実を突き付けます。牙をえぐり取られたアフリカゾウの衝撃的な姿。密猟で動いた資金が過激派テロリストの資金源になっていること。密猟の背後に蠢く中国大使館の存在。密猟組織の実態に迫っていく過程はミステリー小説のようにスリリングで、ノンフィクションの醍醐味を味わえる読書体験になること間違いありません。

 本書は第25回小学館ノンフィクション大賞を受賞し、選考委員の高野秀行先生、三浦しをん先生、古市憲寿先生から満場一致の指示を得ました。「私は、今後も象牙の印鑑は絶対作らないぞと決意した」(三浦先生)、「実は日本が加害者だった? ゾウと我々の意外な関係性が明らかになる」(古市先生)、「ショッキングな現実が勢いある筆致で描かれ、『ザ・ノンフィクション』の醍醐味がある」(高野先生)という評価をいただきました。

 私たちの子どもや孫の世代は、アフリカゾウを見ることができなくなるかもしれない――。そんな未来にならないためにも、本書が世代を超えて読み継がれ、密猟問題が語り継がれてほしいと切に願います。

──『牙 アフリカゾウの「密猟組織」を追って』担当者より

牙 アフリカゾウの「密猟組織」を追って

『牙 アフリカゾウの「密猟組織」を追って
三浦英之

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