週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.54 うなぎBOOKS 本間 悠さん

週末は書店へ行こう!

とらすの子

『とらすの子』
芦花公園
東京創元社

 書店員をやっていると「一番好きな本(または作家)」を聞かれることがある。

 とても絞りきれないので、その手の質問には「選べません」と答えているが、その代わり、一番好きな映画なら即答できる。1973年に公開された、悪魔祓いを描いた作品『エクソシスト』だ。

 という流れで、芦花公園さんの最新刊『とらすの子』を紹介したい。

 物語は、都内無差別連続殺人事件の記録から始まる。

 令和■年(この■を見ると、あぁ芦花公園さんの作品だなぁ〜と)、一月十六日から三月十四日にかけて、東京都の彼方此方で40人以上の男女が立て続けに惨殺されるという不可解な事件が勃発。オカルト雑誌のライター・坂本美羽はこの事件の取材に当たり、関わりがあるかに思えた一人の少女にコンタクトを取る。

 待ち合わせ先に現れた少女・ミライは、友人に誘われて訪れた施設「とらすの会」で出会ったマレ様と呼ばれる絶世の美女と、「とらすの会」での奇妙な体験を語り出す。

 

〝お願いします。時間がないです、私、殺されます。〟

 

 連続殺人事件は、果たして「とらすの会」に関係するのか……。

 ここから何が起こるかは読んで体感していただきたいので、非常にざっくりではあるが、あらすじはこの辺で。

 

 特に今作で刺さったのが、主軸となる女性二人をはじめとした人間関係の描かれ方だ。

 事件の取材に当たるライター・坂本美羽と、事件に関わる警官・白石瞳。

 小説家になる夢に破れた坂本は、やりたくもないオカルト雑誌で、つまらない記事を書いて日銭を稼いでいる。かたや小柄で愛らしい見た目ながら、柔道も得意で正義感に溢れる白石。自身を「何の取り柄もない高卒のおばさん」と卑下し、劣等感を抱く闇属性の坂本が、「根っからの善人」であり健気に職務に打ち込む光属性・白石に対してどのような感情を抱くのかは、想像に難くないだろう。妬み・嫉み・憎しみ……超常現象以上に一筋縄ではいかない人間関係が、この物語のおぞましさの基盤をしっかりと固めてゆく。

 

 本当に怖いのは、人間ですか? それともお化けなどの超常現象ですか?

 人間が怖いのは言うまでもないが、やはりホラー好きとしては、『エクソシスト』で少女・リーガンに突如不幸が降りかかるように、人智の及ばない恐怖も覗いてみたい。

『とらすの子』は、そのどちらの願望も存分に満たしてくれる、まさに狂喜の作品だった。

 

 

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