◎編集者コラム◎ 『ほどなく、お別れです』長月天音

◎編集者コラム◎

『ほどなく、お別れです』長月天音


 7月6日に文庫判が発売となった『ほどなく、お別れです』は、長月天音さんのデビュー作です。2018年に第十九回小学館文庫小説賞を受賞(応募時タイトル「セレモニー」)し、単行本として刊行された際には、グリーフケア(身近な人を亡くし悲嘆に暮れる人に寄り添い、立ち直るまでの道のりをサポートする遺族ケア)小説として大きな反響を呼び、デビュー作にしてロングセラーとなりました。

 長月さんはご主人の5年に渡る闘病生活を支え、死別されています。その後、2年の歳月をかけて書き上げたのが本作です。

 舞台はスカイツリー近くの葬儀場「坂東会館」。就職活動に失敗し、「坂東会館」でのアルバイトに復帰した大学生の清水美空は、〝訳あり〟の葬儀ばかりを担当する葬祭ディレクター・漆原と仕事をする機会を得ます。亡くなった方と遺族の思いに寄り添おうと心を尽くす漆原の仕事ぶりを見て、美空自身も葬祭ディレクターを目指すようになります。

 

「決して希望のない仕事ではないのです。大切なご家族を失くし、大変な状況に置かれたご遺族が、初めに接するのが我々です。一緒になってそのお気持ちを受け止め、区切りとなる儀式を行って、一歩先へと進むお手伝いをする、やりがいのある仕事でもあるのです」――本文より

 

 著者は、闘病当時の夫にしてあげられなかったこと、伝えられなかった言葉、そして自分にかけて欲しかった言葉が、作中に自然と盛り込まれていったといいます。物語を紡いでいくことで、ご自身の気持ちを整理することができたとも。本書がグリーフケア小説として大きな反響を呼んだのは、著者がまさにその当事者であったことも関係していると思います。大切な人を失った悲しみに暮れている方々の心に、切実な一つ一つの言葉が届いたのではないかと。

 主人公の美空は「坂東会館」で多くの方の葬儀を担当しながら、ある近親者との別れも経験します。ラストシーンで、漆原が美空に投げかける言葉は、必ず読んだ方の心を打つと思っています。オビのコピーにある「3+1回泣けます」は誇大コピーではありません。編集担当者の実感です。

 シリーズ第一弾『ほどなく、お別れです』の文庫刊行に合わせ、シリーズ最新作となる第三作『ほどなく、お別れです 思い出の箱』が7月22日に発売となります。カバーイラストは、文庫『ほどなく、お別れです』と同様、イラストレーターのしらこさんに寄せていただきました。社会人二年目となった美空が、どれぐらい成長しているかを見届けていただけたらと思います。そして、漆原との恋も、ほんの少しだけ前進しているかもしれません。

「ほどなく、お別れ」シリーズは、これからも定期的に刊行される予定です。

──『ほどなく、お別れです』担当者より

ほどなく、お別れです

『ほどなく、お別れです』
長月天音

ジェーン・グドール、ダグラス・エイブラムス 著、岩田佳代子 訳『希望の教室』/人間と動物、環境、地球を守るためにグドール博士が発した言葉
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