長月天音『ほどなく、お別れです それぞれの灯火』

悲しみの場所で強く生きる


 私は霊感があるわけでも〝気〟に敏感なわけでもない。しかし〝悲しみの気配〟というものを確かに感じたことがある。

 大学生の頃、私は葬儀場でアルバイトをしていた。告別式では、たいてい棺に入れる花をご遺族に手渡す役割だった。
棺の中の故人は、数時間後には骨と灰になってしまう。ご遺族は、故人の肉体との別れを惜しむかのように、言葉をかけながら花を手向けていく。その時が、まさに〝悲しみの気配〟が最も膨れ上がる瞬間だった。
しっとりと湿った空気は、ご遺族の思いの分だけ質量を増し、密度が濃いようだった。
その空気に取り込まれると、第三者である私まで涙を抑えきれなかった。葬儀場は、多くの思いが錯綜する場なのだ。きっとそれは悲しみだけではないだろう。棺を囲む人々の数だけ、物語があるに違いない。

 私は葬儀を〝区切り〟と表現してきた。
火葬を終え、精進落としの食事のために葬儀場へと戻ってきたご遺族は、遺骨となった〝大切な人〟を抱えながらも、それまでとは様子が違っていた。食事も残さず食べ〝これからのこと〟を語る方もいた。
〝大切な人〟がいなくても、残された人は生きていかなくてはいけない。人間の強さを、その時の私は実感していたのだと思う。

 今回、『ほどなく、お別れです』の続編を書かせていただくことができた。
私たちにとって葬儀場は非日常の場であっても、そこで働く人にとっては日常の場である。悩みも恋も、通夜のない夜に皆で飲みに行くこともある。中には実際に奇妙な体験をしたスタッフもいた。アルバイト中の実体験である。やはり葬儀場は不思議なところだ。
普段はあまり触れることのない場で、奮闘する人々の姿を描くことは楽しかった。
彼らが、大切な人を失ったご遺族にどう寄り添っていくのか。また、ご遺族はどのように心に折り合いをつけるのか。それが、本作『それぞれの灯火』なのである。

 とはいえ、大切なものを失った時、再び前を向くのは難しい。別れではなく、何かに行き詰まった時もそうだ。そんな時、ふと気付かせてくれる言葉を本作には込めたつもりである。読んでくださった方の心に、僅かでも希望の光を灯すことができればと願っている。もちろん、純粋に主人公の成長を楽しんでいただければ幸いである。

長月天音(ながつき・あまね)

1977年新潟県生まれ。大正大学文学部日本語・日本文学科卒業。2018年、『ほどなく、お別れです』で第19回小学館文庫小説賞を受賞(応募時タイトル『セレモニー』を改題)し、デビュー。本作が、デビュー二作目となる。

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