◎編集者コラム◎ 『ロスねこ日記』北大路公子
◎編集者コラム◎
『ロスねこ日記』北大路公子
椎茸は正解だったのだろうか。
連載中、単行本の制作時にはなかったが、文庫のゲラで久しぶりに読んでちょっとずつ頭をもたげ、発売を控える今、心の大部分を占めている疑念だ。
未読の方のために説明すると、「猫のいない寂しさを埋めるために植物を育ててみる」というこのエッセイ集で、最初に育てるのが椎茸なのだ。編集者のすすめで。つまり、私のすすめで……。
著者が興味を持てること、すぐに結果が出(て原稿が書ける)ること、連載のスタートが9月という(のは、北海道ではすぐそこに白いものが舞う季節が待っている)こと、それなのに植物を育てるというコンセプトで進めようとしていること、などなどぐるぐる考えているうちに出した答えだった。
寂しさを埋めるために椎茸を育てても、食べてしまったらまた穴が空く。ゴールはどこに……。北大路さんの疑問をよそに、6年前の私は椎茸のあと、まいたけやスプラウト、ヒヤシンスなどを送り続けた。北大路公子さんは、それらと真摯に向き合い、名前をつけ、水をやり、日光をあて、立派に育て上げ、その日々を綴る。猫のいない寂しさは、果たして埋めることができただろうか。
文庫には、作家の町田そのこさんに解説を寄せていただいた。「北大路さんファン」と公言する町田さんが、本書はもちろん、北大路さんの作品の魅力について存分に書いてくださっている。こちらもぜひお読み逃しなく。
──『ロスねこ日記』担当者より
『ロスねこ日記』
北大路公子