◎編集者コラム◎ 『処方箋のないクリニック』仙川環
◎編集者コラム◎
『処方箋のないクリニック』仙川環
医療ミステリーの第一人者として知られている仙川環さんですが、今回の作品はこれまでと雰囲気の違うユーモアに満ちたハートウォーミング小説になっています。
これまで特異な病原菌や感染症などをテーマとして多くの作品を上梓されてきた仙川さんですが、「読者が一番身近なのはごく普通の病気ではないだろうか」というところから発想されたのが、今回の作品です。
医療ミステリーといえば、やはり未知の病原菌や、人工的に作り出された未知のウイルスなどのようなものが目を惹きがちですが、実際に読者の身の回りでは実際にそのようなものに遭遇することはありません。それよりも身近なのは「高血圧」や「緑内障」や「アトピー」のようなごく普通にだれでもが悩んでいる病気ではないでしょうか。そしてこれらの病気は、すぐに命に関わることはあまりありませんが、本人はもちろん、家族にとっても一大事です。病気が原因で家庭の人間関係が崩れていくこともあるでしょう。そんな時に、相談することのできる医師がいたら……。
そんなSOSに応えてくれるのが、今回の主人公・青島倫太郎です。
倫太郎は海外の名門病院でキャリアを積んだ名医ですが、父親の作った大病院での治療にNOを唱え、病院の敷地内の古い洋館に勝手に「よろず相談」のクリニックを開業。お金にならない悩みに親身に乗っている一風変わった医師です。
「検査をして、病名をつけ、薬を処方したり手術を勧める。それはそれで必要なことだけど、それだけでは足りない」
そんなモットーを持つ倫太郎は、患者とその家族の訴えを真摯に聞き、解決できる方法を見つけてくれます。
現代の赤ひげ先生である倫太郎がどのように、解決の道筋へと導いていくのかをぜひ、堪能してください。
次の患者さんはあなたかもしれません。
──『処方箋のないクリニック』担当者より