仙川 環『処方箋のないクリニック』

仙川 環『処方箋のないクリニック』

北風ではなく太陽を


 飲み会などで出る血液型性格診断の話題が苦手だ。「A型は几帳面」などとしたり顔で言っている本人も、相槌を打っている同席者も、本気でそうと信じているわけではないだろう。なのに、「非科学的だ」と目くじらを立て、その場の雰囲気を壊すのは、気まずいものがある。そこで、「〇型の人は付き合いにくい」といったネガティブな方向に話が向かわない限り、適当に受け流すことにしているが、どうにもモヤモヤする。

 医療や健康にまつわる話題は、場合によってはさらに厄介だ。怪しげな健康法、民間療法を信じ、実践している人に、「それは似非医学だ」、「害があるかもしれない」と伝えても、納得してもらうのは難しい。険悪な雰囲気になることすらある。

 そんな経験を繰り返すうちに、ようやく分かってきた。こちら側が「正しい情報を理解させよう」と力めば力むほど、相手は頑なになっていく。「北風と太陽」の寓話の通りなのだ。 『処方箋のないクリニック』の主人公である青島倫太郎医師は、そのあたりのことを誰よりよく分かっている。だから、病院嫌いだったり、おかしな情報に振り回されたりしている患者や家族に対して、決して上から目線で意見をしない。いつでもフランクで朗らかだ。だからこそ、相手は彼の話に素直に耳を傾ける気になる。

 季節を問わずハーフパンツを愛用していたり、スイーツ好きだったりと、変わり者ではあるけれど、こんな医師が身近にいたら、どれほど心強いだろう。玉石混交の医療・健康情報が、身の回りにあふれている現在、彼のような医師が必要だとも思っている。


 
仙川 環(せんかわ・たまき)
1968年東京都生まれ。大阪大学大学院医学系研究科修士課程修了。大手新聞社在籍中の2002年に書いた小説『感染』が第1回小学館文庫小説賞を受賞し、作家デビュー。その後執筆活動に専念する。作品に『再発』『潜伏』『誤飲』『鬼嵐』(小学館)ほか多数。

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