◎編集者コラム◎ 『9月9日9時9分』一木けい

◎編集者コラム◎

『9月9日9時9分』一木けい


9月9日9時9分』が9月に文庫化されることが決まったとき、嬉しくて思わずガッツポーズをしてしまいました。タイトルからは一見、どんな物語か想像がつかないと思います。実は9月9日9時9分という日時は、タイでとても大切な時間とされているんです。(先日出かけた先で偶然見つけたタイ料理屋の名前も「タイ屋台999」でした!)

 タイ・バンコクからの帰国子女である主人公の漣が、恋人に言うセリフに、こんな言葉があります。

「タイ語で9は、ガーオっていうの。同じ音で『進む』っていう意味の言葉があって、人気のある数字なんだよ。車のナンバープレートも9999が一番高額で、何かのセレモニーとかお店のオープンとか、9月9日9時9分に行われることも多いの」

 
 日本ではどちらかというと縁起が悪いと思われがちな数字ですが、タイでは一転して最高にハッピーナンバーなのだそうです。

 この作品の美点はあげ出したらキリがないほどたくさんあるのですが、タイという国が日本に住む我々に与えてくれるパワーや癒しの大きさには、私自身も編集中、何度も助けられました。主人公の漣が生きづらさを感じたときに思い出す、タイでの大らかでやさしい日常。オオトカゲがのそりのそりと歩く公園。電線にはリスが走り、どこかからトッケイ(7回啼くと幸運が訪れるとされているトカゲのような生き物)の声が聞こえてくる、圧倒的な自然の存在感。漣がその後旅行で訪れたタイで、王様の死の報道によって世界が止まったような時間が訪れる、その神秘的とも思えるような瞬間。タイに住んでいた一木さんから届く、タイでの写真の鮮やかな色彩には、緊張を解いてくれるようなリラックス効果もありました。

『9月9日9時9分』写真
先日タイへ行かれたという一木さんがこんな写真を送ってくださいました。公園のサイクリングロードにオオトカゲが!

 タイへ行ったことがある方もない方も、ぜひタイ特有の温かい風を、物語の中で存分に感じていただきたいと思います。

(単行本時に期間限定で更新していたInstagramアカウントで、一木さんが撮影された写真を見ることができます。最近も新しく写真を追加していますので、よろしければこちらも、ぜひお楽しみください!→@9999_keiichiki

 物語の内容についてもじっくり書きたいところですが、長くなってしまうので、弊社HPの紹介をお読みいただくことにします。

 とにかく漣の高校生らしい若さと未熟さと情熱の掛け合わせが、エモい。エモすぎる!

 一生懸命生きることは、惨めでかっこ悪くて、ときに誰かから批判も買ってしまうかもしれない。けれど、それを恐れて何もしないことと、どちらがあるべき姿なのだろうかと、大人であるはずの私も、一緒に考えさせられました。

 高知東生さんの解説を巻末に収録し、さらに読み応え抜群の1冊になりました。ポケットサイズでもぜひ、お手にお取りいただけたら幸いです。

──『9月9日9時9分』担当者より

9月9日9時9分
『9月9日9時9分』
一木けい
高瀬隼子『いい子のあくび』
「推してけ! 推してけ!」第39回 ◆『ぎんなみ商店街の事件簿 Brother編』『ぎんなみ商店街の事件簿 Sister編』(井上真偽・著)