◎編集者コラム◎ 『書くインタビュー6』佐藤正午

◎編集者コラム◎

『書くインタビュー6』佐藤正午


 佐藤正午さんの『書くインタビュー6』が発売されました。

 この一文、念のためひとつひとつ説明します。
 ……といった書き出しは、『書くインタビュー4』の編集者コラムでも、『書くインタビュー5』の編集者コラムでも採用してきたことなので(「二度あることは三度ある」ということばも頭をかすめて迷いましたが)、作家のことや「書くインタビュー」というシリーズの特性みたいなものの説明は、今回省くとして、だいじなことだけふたつお伝えしておきます。
 この『書くインタビュー6』に収録した質問と回答は、2021年1月から2022年10月までの、およそ2年間にやりとりされたメール(計44通)であることがひとつ。
 そしてもうひとつ。ここは強調しておきたいんで勝手にマーカー引いときますけど、シリーズ第6巻でありながら、1〜5をまったく読んでいなくても、この一冊、おたのしみいただけるはずです!

 さて。
『書くインタビュー6』の楽屋裏や内容にも少し触れていきましょう。
 本書に収録された2021年から2022年は、佐藤正午さん原作の映画『鳩の撃退法』映画『月の満ち欠け』が公開された2年間、でもあります。2作それぞれの映画化についても本書のなかで話題にのぼっていますから、カバーには映画各作の劇場用パンフレットを撮影して使用させていただきました(あまり前例のないことらしく、映画会社のかたにはお手数をおかけしました)。

『書くインタビュー6』カバー写真撮影中
デザインオフィス bookwall でカバー撮影中(立ちあったわけではなくてたまたま遭遇)

 映画化の話題にかぎってつづければ、WEBきらら連載時に大きな反響を呼んだ回答メール「件名:めめのこと、小説のこと」に触れないわけにはいきません。
 映画『月の満ち欠け』に出演された目黒蓮さんについて、佐藤正午さんが原作者の立場から(まだ映画をご覧になっていない段階で)いろいろと語ってくださいました。この連載回は文芸サイトとしては異例(※編集部内比)のPVを記録し、SNS上でも「めめ、よかったね」とか「この作家、おもろ!」といったうれしい反応もたくさん、ほんとうにたくさん目にしました。
 現在、WEB上ではご覧いただけないこの〝神回〟も、もちろん本書ではくり返しおたのしみいただけます。目黒蓮さんを応援しているみなさまにも『書くインタビュー6』を手に取っていただき……なーんていうのは、ちょっと虫の良すぎる話かもしれません。世の中そんなに甘くはないでしょう。でもでも、やっぱり、「件名:めめのこと、小説のこと」は何度読んでもおもしろいんですよ!

 ここから少々ひと理屈こねます。
 わかりやすく数字にあらわれる、PVとか「いいね」の数とかはさておき、という話です。
 連載時、「件名:めめのこと、小説のこと」に大きな反響をいただいた背景にはもちろん、目黒蓮さんというスターの存在がまずあります。一介の編集者から見ればとてつもなくまぶしい存在です。映画『月の満ち欠け』のスクリーンでも、むずかしい役柄を好演されて輝いていましたよね(映画のDVDも購入して、くり返し拝見しました)。
 一方で、編集者は当時こんなことも考えていました。たとえば、ある一人のスターの魅力を、こんなふうに読んでいてたのしく、時に謙虚に、なおユーモアをまじえて書ける作家はどれほどいるのだろうか、と(なかなか、いないんじゃないかなぁ)。
 本書のなかで、佐藤正午さんはこんなことも述べています。

 作家はね、いろんな作家がいる。ひととの違いを押し出さないとやっていけない職業だし、それはさまざまな小説を書いてみせる作家がごまんといる。いるよね? そのごまんといるうちのひとりが自分で、ひとりでいることがいくら心細くても、誰に教えを請うわけにもいかない。だって誰かを先生と慕って後をついていけば、そのとたん追従者ないし模倣者になって、独自性という作家としての売りを手放してしまうことになる。そういう理屈にならないか?

(P67「件名:先生」より)

 
 ここで語られている「独自性という作家としての売り」もまた、あの〝神回〟の原動力の一端であったはずです。ある一人のスターについて、どこかで読んだことがあるような内容が、どこかで書かれていたような文章や構成で語られていたら、あそこまでたくさんの反響はいただけなかったんじゃないかと思うのです。
 ちなみに。
 上に引用した記述は、「でも競輪の世界の理屈はちがう」と次の段落につづきます。競輪(作家の趣味です)について誰かに教えを請いたい、競輪で勝つための先生がほしい、といった文脈のなかで上記は述べられていて、つまり、とくだん佐藤正午さんは作家論とかを主題に語っているわけではありません。でも、そうした文脈のなかに「独自性という作家としての売り」だとかさらりと書いてしまえるセンス、まったく気取ってない(ように思える自然な)構え、そんなところにも編集者は「いいね」を押したくなりますし、もっと言えば、数字にはあらわれない〝神回〟はほかのページにもいくらだってあるわけです。

 たとえばそれは……
 とつづけたいところですが、そろそろ時間です。佐藤正午さんの最新長編小説『冬に子供が生まれる』の編集現場のほうに戻らなければなりません。『書くインタビュー6』のオビにも、しつこいくらいにリキんでこの新作のタイトルを入れました。2024年1月30日発売予定の単行本です。こちらは新年のおたのしみに!

──『書くインタビュー6』担当者より

書くインタビュー6
『書くインタビュー6』
佐藤正午
「推してけ! 推してけ!」第43回 ◆『戦国女刑事』(横関大・著)
吉川トリコ「じぶんごととする」 7. 本の地図をひろげて