◎編集者コラム◎ 『書くインタビュー5』佐藤正午
◎編集者コラム◎
『書くインタビュー5』佐藤正午
佐藤正午さんの『書くインタビュー5』が発売されました。
この一文、念のためひとつひとつ説明します。
まず【佐藤正午さん】。念のためです、小説家の名前です。まもなく公開をむかえる映画『月の満ち欠け』の原作者で、2017年にはこの小説『月の満ち欠け』(岩波書店)で直木賞を受賞しています。
次に【書くインタビュー5】。この本のタイトルです。2009年からつづいている「ロングインタビュー 小説のつくり方」という連載がありまして、毎月メールで届いた質問に、佐藤正午さんがメールで回答しています。ちなみに、先日(2022/10/20)公開された連載124回では映画『月の満ち欠け』出演の目黒蓮さんをめぐり、作家は原作者の立場から「めめ推し」を公言し、たくさんの反響をいただいたばかりです。
そんな何が飛び出すかわからない連載で、2019年1月から2年間やりとりされたメール(計48通)をこの一冊にまとめました。口頭ではなく、文章に書いて行われるインタビューですから、「書くインタビュー」というわけです。文庫オリジナルで、今回がシリーズ第5巻になります。
5巻? といま思ったそこのあなた、心配しなくてだいじょうぶですよ。ここは強調しておきたいんでちょっと文字を大きくしますが、1〜4をまったく読んでいなくても、この一冊、たのしんでいただけるはずです。
それから1〜4をすでにおたのしみいただいたみなさま、お待たせしました。『書くインタビュー5』が【発売されました】。
さて。
シリーズ前巻の編集者コラム冒頭の文面をベースに、ここまで書き直しつつ、書きすすめてみましたが、今作では、これ以上のことをなんだか書きづらいんです。どうしてかといえば、『書くインタビュー5』で名物作家を相手に聞き手を務めているのが、この編集者だからなんです。ま、あくまでピンチヒッターなんですが。
連載2年ぶんをまとめた原稿を読み直しているときには、誰だよ、こんな下手な文章書いてるの! あ、おれか? と何度も頭をかかえました。ちょっとコレ競輪の話題が多すぎるんじゃないの! ま、でもそれは正午さんもいっしょか。因果応報、自業自得、ブーメラン……そんな単語も、原稿を読み直しながら頭のなかを渦巻きます。
ここでやはり気になるのは、読者のかたにこの一冊がどう映るか、ということでした。もしかしたら、作家と担当編集者の馴れ合いメール合戦のように思われてしまうかもしれません。
もちろん担当編集者ですから、作家とは面識もあります。じっさいにお会いしてからもうじき20年になるお付き合いです。当然メールのなかの言葉づかいや文面もお互いフランクなものになります。
ただ。ただですよ、本書に収録されたメールの「内容」に関しては、舞台裏での相談などはいっさいありませんでした。たとえば、編集者から「来月はこういう質問を送ろうと思うんですが……」などと事前に確認したこともなければ、作家から「次回からは、こんな筋書きでいこうか」といった依頼もありませんでした。なぜなら、それをやると連載がつまらない茶番になってしまうことを、作家も編集者も知っているからです。
つまり、ぜんぶアドリブ、行き当たりばったりです(その最たる例となりそうなやりとりを、こちらでためし読みできます)。いま振り返ると、よくこれで毎月つづけられたな、綱渡りの連載だったな、と聞き手を務めたからこその冷や汗もかきます。
もしかしたらこの一冊は、読者のかたにとっては「ふと耳に入ってくるおしゃべり」に似ているかもしれません。
(ここから少し、まさかの二人称でいきますが)
たとえば、あなたが車を運転中に何気なくかけたラジオから聞こえてくるパーソナリティー2人のフリートーク、またたとえば、あなたがふらりと入った喫茶店(ファミレスとかバーでもいいですけど)でたまたま隣のテーブルで交わされていた2人の会話、そういったものに近いかもしれません。
「おしゃべり」ですから予定調和などしていません。話題もあっちこっちに飛びます。なんとかグランプリとか、ワキモトのセンコウとか、あなたがよく知らない話題から、にわかに、あなたも知っている小説家の名前がぽんぽん聞こえてきたりもします。たまにくすくす笑いながら、時には真剣な声音で2人のおしゃべりはつづいています。
あなたが、2人のおしゃべりにもう少し耳を傾けてみたくなったところで、たとえ車が目的地に到着しても、たとえ店内のBGMで2人の声がかき消されたとしても、ご安心ください。本書のページをめくれば何度でもくり返したのしめます。
エッセイとも少し手触りがちがう、佐藤正午さんの〝素の〟人柄をより身近に感じていただける貴重な一冊です。ぜひ!
──『書くインタビュー5』担当者より
『書くインタビュー5』
佐藤正午