◎編集者コラム◎ 『弟は僕のヒーロー』ジャコモ・マッツァリオール 訳/関口英子
◎編集者コラム◎
『弟は僕のヒーロー』ジャコモ・マッツァリオール 訳/関口英子
《本当の試練は、自分を認めるということ》
ベストセラーエッセイ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』の著者・岸田奈美さんが本書の解説に書いて下さったこの言葉を読んだとき、体のずーっと奥の方にすっと刺さって、ありきたりな言い方ですが、目からウロコが落ちました。それも、かなり分厚いやつが、ごろんと。
ごく普通の19歳の青年ジャコモ・マッツァリオールの著書『弟は僕のヒーロー』(関口英子訳)は、6歳下のダウン症の弟ジョヴァンニとの日々を等身大の言葉で綴ったイタリアのベストセラーエッセイです。両親から「特別な弟が生まれる」と聞いて息が出来ないくらい嬉しかったこと。弟が成長するにつれてその「特別」の意味をだんだんと知り、やがて弟の存在を友人たちに隠すようになってしまった思春期。そんな彼を叱るでも諭すでもなく、そっと見守ってくれた両親や姉妹、友人。そしてありのままの弟と自分を受け入れられるようになるまでが、飾り気のない軽やかな文章で描かれます。
この本が生まれたきっかけは、ジャコモとジョヴァンニが作った動画。これを全世界60万人が視聴して大きな話題となり、イタリアの出版社からジャコモに声がかかったのです。
きっかけとなった動画はこちら↓
日本語版は2017年に単行本として出版、その後、イタリアでとっても素敵な映画になり(ジャコモも脚本に参加しています!)、いよいよ2024年に日本公開が決定。
ちなみに、映画を買い付けた「日本イタリア映画社」の成り立ちもかなりユニーク。お時間があったらぜひこちらのエッセイもお読みください↓
「イタリア映画好きの普通のおじさんが、映画会社を作った話。」
文庫化にあたって、真っ先に岸田奈美さんに解説をお願いしたい! と思いました。『かぞかぞ』を読んだときに、「ジャコモとジョヴァンニみたい…」と、この2冊が勝手ながら私のなかでぴたっと重なったからです。早速依頼したところ、「本を読んでから決めてもいいですか?」とのこと。ドキドキしながらお返事を待つこと数日、嬉しいことに岸田さんは想像以上に深く共感してくださり、ご快諾を頂くことができました。そして原稿が届きあの言葉を読んだときの、何とも言えない感覚……!
他の誰でもなく、自分自身を認める。これがシンプルなのに一番難しい。ジャコモも、岸田さんもそうだった。そして障害のあるご家族を持つ方だけでなく、すべての人にとって一番しんどくてやっかいで難しくて、でもきっとそれが一番大切なことなんだと、単行本を編集してから6年も経ってだけれど、本作と岸田さんに改めて教えて頂きました。
最後に、編集担当として一番声を大にして言いたいのは、なんといってもジョヴァンニがめっちゃ愛すべきヤツだってこと。周囲の心配もどこ吹く風、ユーモラスで飄々としていてついニヤリとさせられてしまう。それでいて何気ない言葉や行動でこちらの見えていた景色までふっと変えてしまう、魔法使いのような少年。本書にはそんな素敵なエピソードが満載です。
そんなジョヴァンニの世界観をとっておきの絵にしてくださったのは、大人気絵本作家のヨシタケシンスケさん。大好きな恐竜に乗ったジョヴァンニたちの笑顔には、いつ見ても幸せな気持ちをもらえます。
映画のジョヴァンニも、この本から抜け出てきたままのような可愛さ。ジャコモのイケメンぶりにも注目です。ぜひこの年末年始は、本書と映画で彼の魅力をお楽しみください!
──『弟は僕のヒーロー』担当者より