◎編集者コラム◎ 『喫茶おじさん』原田ひ香

◎編集者コラム◎

『喫茶おじさん』原田ひ香


『喫茶おじさん』写真
ぬい活もしました。

 先日、出張で京都へ行きました。前日に確認したら、待ち合わせの2時間も早く着く新幹線の切符を予約していました。首をひねりながら布団に入りましたが、翌朝起きた私は、切符を予約した3週間くらい前の私に感謝しました。

 新幹線が遅れていたんです。雪で。大雪で!

 京都には30分遅れで到着しました。それでもまだ待ち合わせまで1時間半ほどあります。私はある場所へ行くことにしました。

 そう『喫茶おじさん』に登場する、あの喫茶店へ。

 小さくて古い建物で、外から見ると白い壁に青っぽいタイルが張ってある、昭和四十年代くらいの洋風の一軒家という風情なのだが、中に入るとちょっとしたお城のような……貴族の館というか、海賊の秘密の隠れ家というか、いや、RPGの中で主人公がたどり着く酒場というか……そんななんとも味わいのある場所である。

(P.260より)

 いつか行きたいと思っていたその喫茶店は、原田ひ香さんの描写そのままの佇まいでした。本作の主人公・純一郎と同じ一階の一番奥のテーブルに座り、ウインナー珈琲を注文。しばらくしてクラシカルなコーヒーカップに入ったウインナー珈琲が運ばれてきました。ソーサーには角砂糖が二つのったスプーン。

 最初はそのまま、そのあとぐるぐる混ぜて、しっかり香ばしいコーヒーと乳脂肪分たっぷりのクリームを味わいます。最後に砂糖をひとつだけ落として、溶けるのに任せながらちょびちょびと飲み進めました。

 ある事情でイライラしていた純一郎が思わず「ああ、おいしい」と声に出した、そしていつの間にか家族に思いをはせていた、一杯のウインナー珈琲。時間が止まったようなこのお店にいたら、そんな気持ちになるだろうなあと納得してお店を後にしました。

『喫茶おじさん』には、たくさんの喫茶店が登場します。店名は書かれていませんが、読んでいるうちにきっと、喫茶店に行きたくなると思います。読者のひとりである担当編集の私も、都内のいくつかの喫茶店へ行き、同じメニューを楽しんでいます。そんな中で、3年前の連載時からずっと気になっていた喫茶店をようやく訪ねたというご報告でした。

 文庫版『喫茶おじさん』のカバーは、早川世詩男さんの新たな描き下ろしです。また、連載時の扉イラストをすべて収録しています。カバーとこの扉をデザインしてくださったのは須田杏菜さん。単行本のときにはページ数の関係でできなかったことを実現していただきました。とてもかわいいです。

 解説は、編集者の岡本仁さんにご執筆いただきました。マガジンハウスの数々の雑誌に携わり、食や旅などをテーマとした執筆も手掛ける岡本さんが本作をどのように読み解いたか、ぜひお読みください。

 帯には、ずんの飯尾和樹さんの推薦コメントを使わせていただきました。コメントの全文は、こちらに掲載しています。

 気になった方、喫茶店で読んでみてください。

 ──『喫茶おじさん』担当者より

喫茶おじさん
『喫茶おじさん』
原田ひ香
鈴木るりか『14歳、明日の時間割』
小学館から『探偵小石は恋しない』が選出!2026年本屋大賞ノミネート作品発表