ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第134回

「ハクマン」第134回ウンコ度急上昇中のXに
瞼が高速痙攣するような
大便ワードが挙がっていた。

先日風邪を引いた。

ただの喉風邪なのだが、則夫などは無視して、ミッチーへの攻撃に全振りしたリョータのように、発熱や他一切の風邪症状を併発させない代わりに、喉だけはぶっ殺すという風邪であり、しばらく唾も飲み込めず、ティッシュを口に詰め、夜もろくに眠れないという日々が数日続き、当然その間の仕事も滞ったため、今そのゲロを急ピッチで片づけているところである。

一見過酷である。しかしこれが会社員ならどうだっただろう。

風邪を引いている間も、完全に休んでいたわけではなく、できる仕事は進めていたが、会社であれば体調悪い奴が出社して、喉いてーとか言いながら仕事される方が迷惑である。

よって休むしかなく、急ぎの仕事は周囲に頭を下げ「この背景にある丸い物体を黒く塗ってホワイトで『バフソ』と書いておいてください」と頼まなければいけない。

この時点で、人に頼むことと指示ができない奴は詰む。

さらに復帰後は数日穴をあけたことを詫び、なんだったらダサいクッキーの1枚でも配り「ヨックモックも知らねえのかよ」とSNSに晒されたりするし、詫びをしなかったらしなかったで晒されるのだ。

夫は会社員かつ管理職なのだが、先日「部下が直属の上司ではなく俺に欠勤の報告をしてきて立場上困る」と言っていた。

もはや休む以前に休むことを報告する段階から文句が発生してしまっている。

これに比べれば、体調不良を報告するのはXという名の虚空のみ、あとは自分で吐いたゲロを自分で掃除すればいいだけの私は「楽」としか言いようがない。

「ハクマン」第134回

(つづく)
次回更新予定日 2024-7-10

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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