ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第150回

「ハクマン」第150回
実写ドラマ化の詳細が
ついに発表された。だが
原稿の催促はやってくる。

しかし、キャスト発表により、すでに原作に興味を持ってくれた人もいるはずである。

そういった方には大変申し訳ないが、結論からいうと、現在原作の在庫は「無」である。

アマゾソのみならずほぼ全てのネット書店でないので、本屋にいっても「そこになければないですね」という、滅びの呪文を唱えられるだけだと思う。

普通こういうのは話題にあわせて重版するものではないのか、と思わぬでもないが、出版社側にも虎の威を借りて売るなんてとんでもないという信念でもあるのだろう。

そもそも重版というのは漫画家を15年やっていても判断基準が謎であり、まず作家が「重版してください」と言って重版されたことは一度もなく、担当の目を2つ3つ取り出しながら脅してもどうにかなるものではない。

ならば編集長も合わせて6つ、7つ取り出せばいけるかというとそうでもなく、重版については販売や営業という、編集部以上に心が凍った連中が機械的に判断しているようなので、こっちが不満を垂らしても無意味だったりする。

それに、現在は電子を利用する人の方が多い。「気になった瞬間すぐ読める」という点では、こちらの方が早いので気になった方はそちらで読んでもらえれば幸いだ。

逆に言えば、これがコロナ以前の、まだ紙と電子のシェアが微妙だった時期に起こっていたら、出版社に爆破予告を出してドラマ化も白紙になっていただろう。

この原作の1巻が発売された時はコロナのせいという設定で、本が売れず次巻で打ち切りになりかけていたのだが、今になって伏線を回収してくるという展開だ。

終わりかけていた時から応援してくれた読者も軒並み喜んでくれて良かったと思う。

ちなみに正式に発表されるまで、このことは夫にしか言っていなかったのだが、日頃の意思疎通が取れてなかったせいか、あまり喜びが伝わっておらず、どちらかというと心配している。

もう少し喜んでくれてもいいのにと思ったが、今思えば私の方が夢が叶った人間というより、村の祠が破壊されていることを長老に伝える村人みたいな顔をしていたため喜んでいいことなのかどうか判別がつかなかったのだろう。

確かに、漫画のメディア化についてはここでは語り尽くせないし、語り尽くしても全削除になることがいろいろ起こっているため、喜びより先に不安の方が来がちだったりもするが、おそらく大丈夫だと思う。

しかし、体制は考えられる限り最高、ということはコケた場合、問題は原作以外にないということにもなる。

  

「敗因はこの私」

田岡茂一監督の名言を、例えではなく素でいう日が来るかもしれないということだ。それはそれで貴重な体験をすることができたと思うしかない。

「ハクマン」第150回

(つづく)
次回更新予定日 2025-3-12

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

採れたて本!【デビュー#26】
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