ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第161回

「ハクマン」第161回
漫画家になって15年以上。
担当の異動や退職だけでなく、
ついに「定年退職」をする者も現れ始めた。

しかし、連載を終われと言われたら終わるしかない漫画家に対し、会社員は自分のせいで木っ端みじんになった会社だったものを背景に「辞めろ」と言われているのでなければ、諾々と辞めなくていい場合も多い。

よって、長く続けられる仕事をテーマにするなら、やはり漫画家よりは会社員の方がいいだろう。 

だがそもそも「仕事は長く続けられるものの方がいい」という感覚がおかしいのではないか。

仕事なる苦痛の時間は短い方がいいに決まっているのに、長く続く仕事を勧めるというのは、即死せずに長患いした末に死ねと言っているようなものだ。そのアドバイスが正しいと思う感覚も狂っている。

しかし、仕事をし続ける人生も苦しいが、働かずに金がない人生も長く苦しいので、多くの人間は働いて金を稼ぐことを避けられない。

しかし、金を稼ぐ手段はもちろん「期間」も自由なはずである。

死ぬまで必要な金を40年かけてコツコツ稼ぐ必要などどこにもない。むしろ1年で40年分稼いで、残り39年はくうでも見つめて過ごした方がいいに決まっている。

それが可能な職業といえば言うまでもなく漫画家だ。

実際ジャソプで一発でも売れればもう残りの人生困ることはないだろう。ジャソプで描いたこともなければ売れたこともないのでわからないが、多分そうだ。

そういう仕事が存在するのに、あえて40年もかけてやっと一生食えるか否かの会社員などを勧めるのは悪意があるのではないか。

よって私も、私に聞く時点で自暴自棄なので何を言っても無駄だとは思うが、万が一将来に悩む若者に助言を求められたら「1年で40年分稼げる職業につけ」とアドバイスする。

漫画家を勧めるわけではないのかと思うかもしれないが、私が言った時点で「漫画家は1年で40年分稼げる」の部分が嘘になっているから言えないし、それで本当に1年で40年分稼ぐ漫画家になられても困る。

ハクマン第161回

(つづく)
次回更新予定日 2026-2-11

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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