ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第47回

ハクマン第47回 企業アカウントの炎上は、
漫画家にとって
決して他人事ではない。

最近またツイッターの企業アカウントの炎上が増えている気がする。

企業アカウントとはその名の通り企業が自社の宣伝のために持っている公式アカウントのことである。
商品は品質も大事だが宣伝も大事である。どれだけ良い物でも、そういう商品がこの世に存在していると知られなければ売れようがない。
よって、ルーペ自体よりもそれを尻で踏んで宣伝する女優のケツ代の方が高くつくなんてことはザラである。
だが全ての商品にケツ代が出せるわけではない。漫画でも鬼滅の刃が電車を丸ごとラッピングしている中、クソまとめサイトの上部と中部と下部に均等配置されているバナー広告すら出してもらえない漫画は山ほどある。

そんな中、ツイッターというのは基本無料で、上手くバズれば億単位の宣伝広告が出せるという夢のあるツールであり、企業でも個人でも何らか宣伝するものがある、もしくはとにかく己の上腕二頭筋を見せたいという人間ならやらない理由がない。

しかし、ツイッターは上手くいけば高い宣伝効果を出せるが、一旦火の手があがるとブラジルまで全焼させないと鎮火せず、イメージを大きく損なってしまうという諸刃の剣でもあり、特に企業アカの炎上はダメージがデカい。

企業炎上が起こる原因はナチュラルに差別発言をしていたり、企業の意図と世間の認識の間にモーゼがいたりといろいろあるが、ツイッターの場合は「ウケると思ってやった。今は反省している」というケースが多い。

ツイッターに宣伝効果があると言っても、ただ淡々と商品情報を流すだけでは思うように拡散されない。よって、広く知られるために、つぶやきに工夫が必要になってくるのだが、工夫の仕方が「中の人のキャラ立ち」や「起業アカとは思えぬ傾いたつぶやき」になってしまっている企業アカが結構多いのだ。

それ自体は悪くない。淡々と弊社自慢の饅頭の写真をあげるのも良いが「弊社は異物混入を徹底的に防ぐため、男性職人でも腕毛の処理を怠りません」と「美容アカか?」というような腕の写真と、男性ホルモンの擬人化みたいなオジサンを並列されたら、他の饅頭アカより目立つはずだ。

しかし「おもしろ企業アカ」として注目を集めると、それがエスカレートしてしまい、いつしか「スネ毛も処理しました!」と言って、ホットパンツ姿の美脚おじさんがDAPUMPとかのミュージックに合わせて足で饅頭をこねる動画をアップして大炎上、かりんとう饅頭量産、というケースは後を絶たない。

 
次回更新予定日
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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