ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第49回

ハクマンコロナで漫画雑誌の
電子化が進んだが、漫画にも
「TPO」というものがある

これからますます電子のシェアは伸びるだろうが、紙が絶滅するということもおそらくないということだ。
出会い系アプリ最盛の今でもテレクラが絶滅していないというのだから間違いない。ちなみにこれもゴラク担当情報だ。
漫画ももちろん万人にウケるに越したことはないが、数は多くないが、なくならない需要のために描き続けるのもアリだと思った次第である。

しかし、逆にいうと「ガンジーが助走つけて殴るレベル」と同様に「ゴラクが電子化するレベル」でコロナがヤバかったということだ。
特に、いくら電子のシェアが伸びているとは言っても書店が閉まっているというのは痛手であり、その時期に本を出した作家は不幸としか言いようがなかった。

そしてまさに自分が不幸な作家の一人であり、書店が休業しだす直前に単行本の1巻を発売してしまったため、売り上げが伸びず、次巻で打ち切りという憂き目にあいかけた。

という設定でやってきたが、実をいうと「本屋が閉まる前から売り上げ落ちてたし、コロナ関係ないと思う」という判断で切られかけていたのだが、そんなことを言っては応援する方のテンションも下がってしまう。

よってあくまで「コロナの影響で」という設定で支援を呼びかけたところ、その後重版がかかり首が繋がったので、私はどちらかというとコロナで窮地に立たされた、というより、コロナに助けられた作家なのかもしれない。
ちなみに、読者に慈悲を乞う時は、主な原因は別に置きつつも「あくまで己の実力不足ですが」と殊勝な面を見せるのも忘れてはならない、俺は他人の靴の舐め方には詳しいのだ。

このように、飲食や観光業のように、一律大ダメージを受けた業界があるのに対し、漫画は確かにダメージもあったが、逆に鬼滅の刃がこれだけ売れたのは、コロナで外出自粛になり、せっかくだから今のうちに読んでおくか勢が増えたからという説もある。

このような理由で、逆に売り上げが上がった作品もあるとは思うが、電子だと「せっかくだから、俺はこの聞いたこともない作家の見たこともない漫画を読むぜ」とはならないため、ますます売れなくなった作品もある。
つまり、漫画業界への影響は「作家による」といった感じだ。
書店が閉まり雑誌が休刊しだした時は「漫画終わったな」と思ったが、結果的には「個人的に終わりそうになった」というだけだったような気もする。

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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