ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第49回

ハクマンコロナで漫画雑誌の
電子化が進んだが、漫画にも
「TPO」というものがある

ただこのコロナ禍で感じたのは、ヤバいと思ったら早めに次の手を打った方がいいということだ。
ライブや飲食が、オンライン配信やデリバリーに切り替えたように、船が沈みそうになったら沈む前に別の船に移ることが大事である。
もちろん沈没船から泥船に飛び移ってしまうこともあるが、左足が沈む前に右足を前に出せば、徒歩でハワイに行けるように、泥船から泥船に飛び移り続ければ永遠に沈まないと言える。
ただこの方法は天草四郎時貞ぐらいにしかおススメできないので、出来れば丈夫な船に乗る方が好ましい。

漫画も終了を宣告されると本当に落ち込むし、しばらく横になってしまうが、それは一日ぐらいにしておかなければいけない。
終わるのが決まったなら、早く次を考えた方がいいし、今は出版社を通さずとも作品は発表できるので、別ルートから現金を生み出す方法を考えるというのもありだ。
また、靴を舐めに行くと決めたらダッシュで舐めに行かないと、すでに別の奴が舐めているかもしれない。読者の足の指の又の数にも限りがある。
東尋坊へ行くにも、出遅れて、すでに長蛇の列ができて「ここが最後尾です」という札を渡されたら意志が削がれてしまう。

今のご時世「落ち込み」は避けられないものであり、落ち込むのは仕方がないが、あまりにも長時間の思考停止と行動不能は命取りになるので「ダメだこりゃ、次行ってみよう」というドリフ精神が大切である。

(つづく)

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

【著者インタビュー】宇佐見りん『推し、燃ゆ』/時間とお金を惜しみなく「推し」に注ぐファンの熱量を書きたい
人生はそして続いていく……、待望の続々編『私を月に連れてって』刊行! 現役女子高生作家・鈴木るりかに聞いた、深く鮮やかな人間賛歌を書き上げるまで