ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第49回

ハクマンコロナで漫画雑誌の
電子化が進んだが、漫画にも
「TPO」というものがある

今年も1年が終わる。

そう言っても1年というのは、この連載は月2回更新なので担当の催促メールを24回受け取れば自動的に終わるシステムである。
ただその内4回ぐらいは催促前に送っているので、20回、つまり私の1年は実質10カ月しかないということだ。
常人より2カ月も与えられた時間が少ないなら諸々間に合わないのは当然だろう。関係者はそこを考慮してほしい。

しかし今年は世界的にいろいろあった年だったし、今も現在進行形で起こり続けている。
今年を振り返るなら、コロナの話は避けて通れない、こいつをはずすというのは、背景にニコラス・ケイジがいるのを無視して麒麟がくる、を鑑賞するぐらい無理がある。

この1年コロナウィルスの影響により世界中が大変なことになったのだが、もちろん漫画業界も何事もなし、というわけにはいかなかった。

まず、漫画ゴラクが電子化した。
1番最初に言うことがそれか、と思ったかもしれないが、これを避けるのもまた「ニコラス避け」と同じである。
何故ゴラクが電子化したかというと、理由を直接聞いたわけではないが、まず緊急事態宣言により、大型書店が軒並み休業し売場がなくなったこと、また印刷所も平常通り動かすのが難しくなったからと思われる。

しかしゴラク担当にその報告を受けた時は「逆に今まで電子化してなかったんかい」とも思った。
今のご時世、誰が読んでいるのかすらわからない雑誌でも軒並み電子化しており、私の著作も誰が読んでいるのか不明のままほとんど電子化されている。
漫画ゴラクと言えば青年誌の中ではそんなにマイナーではないはずだ。それを差し置いて私の本の方が電子化しているというのは不自然だ。

おそらくこれは、ゴラクを望む人、望む場所の問題である。
ゴラクの主な購読層はおそらく中高年男性、そして置いてあるのは風俗の待合室だ。

これはディスではなく、ゴラク担当本人が「風俗にいくと待合室によく弊誌が置いてあります」ととても丁寧な日本語で言っていたので間違いない。
つまり漫画にも「TPO」というものがあるのだ。
いくら鬼滅の刃が面白いからと言って風俗の待合室に全巻置いていたら、続きが気になってプレイに身が入らないし「ちょっと竹筒をくわえてる感じやってくれる?」という妙なリクエストをする客が増えてしまうかもしれない。
ましてや婦人公論など、男を神妙な顔つきにさせる本など置いてはいけないのだ。
つまり、待合室などちょっとした時間を潰すのにゴラクは最適な雑誌であり、そういった場所に置かれるなら紙の雑誌でなければいけない。
つまり、電子のシェアが紙を越そうかという現在でもゴラクは紙の需要の方が圧倒的に高い雑誌だったため、今まで電子化されてなかったのではないか、と予想される。
確かに、スタバでアイパッドを使ってゴラクを読んでいる奴がいたら、タダ者じゃなさすぎて怖い。

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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