ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第65回
稀代の名作を読まないまま
死ぬこともあるのだ
一発当てて一生食い切れない穀を得て河原を脱出できる可能性もなくはないが、大体米びつの底が見えることに怯えながら河原で一生を終える。
よって、やっと連載がはじまり、これで最低でも1巻(電子版のみ)が発売するまで定期収入が見込めると思っていた矢先に1回で終了はとても厳しい。
新しい連載を始めようにも、また同じくらい準備期間がかかってしまうかもしれないのである。
そして、私のように手伝ってもらう余地がない漫画ならよいが、多くの作家は未だにアシスタントを雇っている。
原稿料は出てもそれまでにかかった人件費を差し引けばほとんど残らない可能性があるし、アシスタントだって「こいつのことだから1巻で打ち切られるだろうが、それまでは仕事がある」と予定を立てているのに、それも狂ってしまう。
このように、漫画が何らかの事情で即終わってしまうと、多くの人間の生活が狂うし、最悪餓死者が出てしまう。
よってこのご時世「火種に気づいて、世に出す前に消す」というのも編集や出版社の重要な仕事である。
自分で自分のワキガに気付けないように、描いている側はそれが燃える可能性があると気付いていない場合が多いのだ。
よって、世に出る前に担当や出版社が「これはヤバい」と止める必要がある。
私も「これは抗議が来る恐れがある」という理由で表現を変えさせられることが増えた。
正直「こまけえことはいいんだよ!」と私の中のマツダがTHEしかけることもしばしばだが、本当にそれで燃えて連載が終わったら「何で言わねんだよ!」とTHEしてしまうだろう。
災害の際はたとえ大事にならなくても避難所に行けと言うように、漫画もたとえ考えすぎでも、燃える可能性が少しでもあれば、早い段階で止めた方が一番被害が少なかったりする。
作家だって、止められたら日和った表現に変えるのではなく、もっと面白い表現を考えればいいだけなのだ。
もちろん、指摘した上で、どうしてもこのままで行きたいというなら作家の意志を尊重するべきかもしれないが、少なくとも私は「作家生命を賭けてもこの下ネタを描きたい」という強い意志はないので指摘してもらえた方がありがたい。
(つづく)