ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第67回

ハクマン第67回漫画家は比較的コロナの
影響が少ない職種だ。
いつも通り売れないだけである

だが、エライ人が確認する資料は当然出力された「紙」なため、見た目がエライ人の要望通りであればひとまずやり過ごせる。
こうして、セルを結合しまくったりスクショしたと思われる画像が貼りつけている、エクセルクソデータが爆誕するのだ。
よって、入社した会社の様式がクソでも、安易に前の事務員はエクセルの使い方を知らなかったのだとは思わないでほしい。

話はそれたが、技術の進化で昔は1時間かかったことが3秒ぐらいでできるようになったはずである。
それにも係らず、なぜ我々の勤務時間は基本8時間で、なぜ24秒になっていないのか。

それは、短縮された分休もうではなく「その分もっと働こう」という発想だからである。
漫画もそれと同じで、ツールで時短された分「もっと描きこむ」という方向へ行ってしまったからだと思う。

そのおかげで、漫画の作画クオリティというのは上がる一方なのだが、それを維持するために今も昭和の作家と変わらないライフスタイルになってしまっている作家もいるようである。

漫画もビジネスだ。
制作は自分の技術と時間、体力で行える範囲でやるべきであり、それを超えて命を削らなければいけないとなったらそれは「赤字」であり、仕事として成り立っていない。
依頼する側も、作家のできる範囲を超えたクオリティを要求するのは、もうこれ以上値引きしたら首くくるしかありまへんわと言っている下請けに「もっといけるやろ」と詰めているのと変わらない。

ただ、編集に言われたわけでもないのに、ノートの1ページ目だけキレイに書くように連載1回目をやたら張り切って描いてしまい、それを維持するために赤字を出し続ける作家もいる。
店であれば開店初日はセールをして、後で通常の値段に戻しても良いが、作家の場合最初セールをしたらずっとその価格でやっていかなければならないのだ。

1,2日寝込むのを嫌がって数年寝込むことになったり、下手をすれば永眠しがちな我々日本人である。
そもそも作者が死ねば当然続きは読めないのだから、漫画の休載に関しては寛大に受け取ってほしい。

そもそも作家は休載すればその分収入がバッチリ減っているのだから何もずるくない。どうしてもコロナワクチン休暇をとっている奴を責めたかったら固定給の奴からにしてくれ。

(つづく)

 
次回更新予定日
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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