ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第75回

ハクマン第75回
今年の正月も
不動の変質者として
実家へ行ってきた。

果たして私は18歳の時「福利厚生」という言葉を知っていただろうか。
知っていたところで、現在福利厚生どころか社会保険すら怪しい状態なので無意味だが、18の時そういう基準で仕事を選ぶという発想すらなく「クリエイターになりたい」という半分寝言を言っていたと思う。

若者が「やりたいことがない」と言うのは、夢がないように聞こえるが、嘆かわしい度で言ったら「クリエイターになりたいっす勢」の方が格段に上である。

むしろ、18にもなったら夢を語るより、地味でも使える資格を取ったり就職を決めている方が親戚には感心される。

それを考えると、18の時親戚の前で堂々と「何でもいいからクリエイティブな仕事をしたい」と堂々と言っていた自分は強心臓だったと思うし、それを見て心肺が停止しなかった母親もアイアンハートだったと思う。
だかこれも、私のバックにクリエイター以上に何をしているのかさっぱりわからない父がついていてくれたおかげだろう。
今になって親の威光が目に染みる。

このように「やりたいことがない」は悪いことではない、悪いのはやりたいことがないというのを理由に何もしようとしないことであり、やりたいことはなくてもやれることややるべきことをやっていれば十分立派である。

むしろそれ以上に厄介なのは「やりたいことがある」と言って何もやっていない人間である。
「やりたいことがある」と言うことで親を「やりたいことのために何かやってるんだな」とミスリードさせ、これで25歳ぐらいまで時間稼ぎされてしまう。

よって、18過ぎて夢を語る人間には「夢に向かって具体的に何をやっているのか」まで詰めた方が良い。
しかし、正月の席でそれをやるのはあまりお勧めできないので「顔だけ知っている親戚の通夜」などの機会を待とう。

ハクマン第75回

(つづく)

 
次回更新予定日
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

◎編集者コラム◎ 『城下町奉行日記 熊本城の罠』『城下町事件記者 熊本・文楽の里』井川香四郎
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第173回