ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第79回

ハクマン第79回
話し合いが苦手だ。
これは、作家というより
知的生命体にとって致命的である。

そういう作家はそのスカした表現が一部の読者にウケたりすることもあるが、あまりメジャーにはならなかったりする。

だが、なんだかんだ言って私が期限までに書類を出したことに対し「結局真面目か」と思った人もいるかもしれないが、それは違う。

この、真面目にやるのは嫌だが、他人に怒られるのは死んでも嫌、という姿勢こそが「真面目系クズ」最大の特徴である。
今回は提出しないと怒られるのはピンポイントで自分だからやっているだけであり、もしこれが「他の誰かに責任を押し付けられる状態」なら絶対やらないし、怒られが発生しそうになったら「そんな仕事があったなんて今知りました」と本気で驚いた顔をして見せるだけである。

私が原稿の締め切りを割と守る方なのも怒られるのが自分しかいないからであり、それでも担当の方が間違った締め切りを伝えてないか3回ぐらいは確認する。

もし私がアシスタントを募集することがあったら「誰かに全責任を押し付けたくなった時」なので絶対応募しない方がいい。

そんなわけで確定申告の書類を税理士のところに送ったのだが、特に連絡はない。
平素から税理士には書類を一方的に送りつけるだけであり、向こうも特に何も言わないため、正直書類が届いているかどうかさえ不明なのである。
それどころか去年の確定申告書類を受け取って以来一度も税理士とは話していない。

よって確定申告期日が過ぎた後、税理士事務所に様子を見に行ったら「更地」という可能性は十分にある。

電話で一言届いたかどうか確認すれば良いだけの話だが「電話が無理」というよくいるタイプのコミュ症なのでそれは叶わない。

よって私は担当から電話がかかってきても基本的に取らない。
だがそれは取ったところで、私は相手の言うことに「はい」と言うだけであり、切った後にメールで「やっぱり嫌です」と送るので、電話での打ち合わせはやるだけ無駄だからだ。

急ぎだから電話しているのかもしれないが、こっちは1日17時間スマホを握りながらタブレットの前にいる傍ら Twitter を62時間やっているのだ。メールも届いた瞬間に見ているので電話と大差ない。
よって私の担当編集になったら、自分の訃報など、よほど重要なことでない限り、電話はかけるだけ無駄なのでかけないでほしい。
それに電話だと勢いで思ってもいないことを言ったり、言った言わないにもなるので、考えて書かれているテキストの方が内容的にも言質的にも電話より優れている。

 
次回更新予定日
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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