『夜が明ける』西 加奈子/著▷「2022年本屋大賞」ノミネート作を担当編集者が全力PR

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もう一度「生きたい」


著者による絵

 3年前、私は数ヶ月、会社を休ませてもらいました。

  家庭も仕事も子育てにも行き詰まり、自分自身を見失っていた私を見かねた周りの人々に休息をとることをすすめられ、私自身少しでも現状を変えられるならと休みましたが、いざ休んだら今度は自室からまるで出られなくなりました。『夜が明ける』で主人公の「俺」が陥った状況と同じで、恐ろしいことに一度引きこもると、その闇から抜け出すのは本当に難しく、そんな自分を責めるばかりの日々でした。今でもあの頃を思い出すと、寒気がします。

 人生のどん底にいたその時、西さんは「小説新潮」に連載する『夜が明ける』の原稿を送ってくださいました。拝読した私は、もう一度「生きたい」と、強くそう思いました。

 ベッドから起き上がる気力も子育てさえもできなくなっている私に、光が射し込む未来が訪れるかは分からないけれど、かすかでも光を見たいのなら、辛くても、私は立ち上がらなければならないと気付いたのです。

 再び社会に対峙し、離婚という決断ができたことも、「ママなんて大嫌い」と言う娘と向き合うことができたのも、何よりいま幸せであることも、『夜が明ける』のおかげです。

 苦しんだ経験がある人なら、強烈に痛感してしまうリアリティに満ちた本書を単行本として出版するまで、西さんは何度も改稿されました。今、西さんはカナダ在住ですが、やはり拠点を移されたのは大きかったと折に触れて仰っています。「当事者でもない自分が、書いていいのか、作品にしていいのか」という葛藤を抱えながら、それでも作家として生き抜くという西さんの強い意志と覚悟が本書には込められています。

 先日、私の母が闘病の末に他界しました。

 母は、「病気と闘う勇気をもらえるから」と病室に『夜が明ける』を持ち込み、最期までその勇気を小説からもらいながら、病と闘い抜きました。

 私たちの人生は、誰かのひと言で救われるし、意外な奇跡にも満ちている。

 そんなことを信じられなくなっている私たちを暗い世界から「夜明け」へと導いてくれる本書が、1人でも多くの方の手に届くことを願ってやみません。

──新潮社 出版部 高橋亜由


2022年本屋大賞ノミネート

夜が明ける

夜が明ける
著/西 加奈子
新潮社
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