ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第80回
最近の他人の潰し方は
「先手必勝各個撃破」が
主流のようだ。
漫画に関しても「若い才能にはもうついていけない」と思うことが増えたが、他人の潰し方に関しても「優しい言葉という遅効性の毒で時間をかけて仕留める」というのは竹槍で戦っていた老兵の考え方であり、最近は「先手必勝各個撃破」が主流のようだ。
しかし私のように10年以上漫画業界にいると「いつ誰が売れるかわからない」ということを嫌というほど知っているため「お前はもうダメだ」などとは口が裂けても言えないのだ。
新人賞をとり担当がついている自分に対し、まだ奨励賞すらとっていない明らかに格下と思っている漫画家志望者が来年「鬼滅廻戦」という大ヒット作を描いているかもしれない、という可能性を一切考えずに偉そうなことを言えてしまうのはやはり「若い力」としか言いようがない。
この星の無数の塵の一つだとまだ理解できない怖れ知らずな戦士たちの振る舞いに戦慄するばかりだが、見方を変えれば漫画家志望者同士が足を引っ張り合っているだけという「誰が売れるかわからない世界だが、ここにいる間は絶対に売れない」という熱い予感を感じさせる場所でもあるので、やはり境遇が似たものだけでつるみ続けるというのは危険である。
しかし、一見何も得るものがない、むしろこうなってはいけないの見本のような場所だが、実は学びが大きい。
普通、気に入らない作家を攻撃しようと思ったら「悪口」ではなく「批評」という体にするため、作品に対して文句を言いがちだが、それは甘かったのである。
そのコミュニティでは作品ではなく、それに対する担当の反応から「作品云々ではなくお前自身がもう見放されている」という、本体への攻撃を行なっているのだ。
確かに、モンスターを無限に生み出すタイプのボスキャラと戦っている時、モンスターをいくら倒し続けてもボスを叩かなければ意味がない。
それと同じように作品にいくら文句をつけたところでそれを生み出す作家自体が無傷ならどうしようもないのだ。
「叩くなら本体」というのは、実に合理的な若者らしい戦い方であり、とても参考になった。
やはり人はある程度老いたら若者の意見を聞くべきなのである。
よって、私も本気で潰したいと思う作家ができたら、回りくどいことはせず「腕を折りに行く」という若者の戦術でいってみたいと思う。
(つづく)