ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第80回

ハクマン第80回
最近の他人の潰し方は
「先手必勝各個撃破」が
主流のようだ。

同業者への嫉妬心があまりにも強すぎる、という理由から漫画家としてデビューして以来10年以上、他の漫画家とは極力関わらないようにしていた。

関わらなかったところで、刃牙のリアルシャドーにより召喚した、会ったこともないサクセス作家と連日死闘を繰り広げる日々に変わりはないのだが、下手に知っている作家がサクセスしてしまうとリアルに相手を害しに行ってしまう恐れがある。

つまり私はむしろサクセス作家の身を守るために、サクセス作家の幻覚と戦い続けているのだ。

だが最近、Twitterのボイスチャット機能を使って同業者と話すことが増えた。
話す人たちは、作家として身を立てており、私より全然売れている人も多く、正直リアルシャドーで2、3回殴ったことがある奴も少なからず含まれている。

しかし「作家としての志」のようなものが割と近く、誰かが景気の良い話を始めたら「不愉快だからそのような話はやめろ」とはっきり言えたり、最悪「無言退室」が許される空気が心地よいため、つい入り浸っている。

しかし「居心地の良い場所」というのは大事だが、家族や気の合う友人といると安らぐ、というのと「同レベルの人間とたむろしてると落ち着く」というのは全く別の話である。
後者は「適温の肥溜め」のような側面もあり、浸かり続けることにより自分の垢でさらに湯が汚れていくので浸かり過ぎは禁物なのだ。

まず同じレベルの人間同士で傷をペッティングし合っていると「自分はこのままでここにいて良いのだ」と、シンジくんのように自己を肯定することはできるが、逆に向上心がなくなってしまう。

それにあの「3歩進んでムーンウォーク」でお馴染みだった永遠の燻り野郎シンジくんだって、最終的には大きく成長してしまったのだ。
テスト前に他人が言う「全然勉強していない」がほぼ確実に嘘であるように、同業者の「全然儲かりまへんわ」も全く当てにならず、少なくとも口ではそう言いながら水面下では儲かる努力をしており、気づいたらマジで儲かっていないのは自分だけになっているのだ。

そこで、同レベルと思っていた人間は抜け駆けする可能性がある、もしくは最初から同レベルではなかったと気づくのだ。
そこで向上心を取り戻せるなら良いが、元からなかったものは取り返せない。
そこで、抜け駆けさせないようにするか、同レベルにまで相手を落とすために「君は今のままで充分よくやっている」や「頑張りすぎているから少し、具体的には世間が君を忘れ去るまで休んでみてはどうだ」など、常にそこにいて言うことが妙に優しい肥溜めのヌシになってしまったりするのだ。

 
次回更新予定日
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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