ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第85回
背中に著書、腹にダイナマイト持参で
県庁を表敬訪問するぐらいの
営業努力は必要だろう。
しかし、自分のように大して売れてもいない作家が地元に存在を気づいてもらい、さらに応援してもらおうというのがおこがましいのかもしれない。
応援してもらいたければ、自ら背中に著書、腹にダイナマイト持参で県庁を表敬訪問するぐらいの営業努力は必要だろう。
そうすれば県警が出動することになり、少なくとも「俺が払った税金が俺に使われている」という実感を「手錠の冷たさ」という肌で感じることができる。
そのことにより間違いなく地元に存在を知ってもらえるだろうが、今度は「地元に居づらくなる」という別の問題が発生してしまうような気がする。
逆に、書店で地元出身作家として推してもらえている作家はどうやって存在を知ってもらっているのか謎だ。
先日、家のすぐ近くで、地元在住のイラストレーターのグループ展が開催されたようである。
漫画やイラストの仕事はとっくの昔に居住地が関係なくなっており、どこに住んでようがやれる仕事なのだが、それでも地元で画業をやっている人はレアであり、それがすぐ近くで催しをやるというのはSSRなので、見に行ってみようかと思った。
しかしそう思いながら家から一歩も出ないうちに会期が終了してしまっていた。
おそらくこういうところである。
地元に応援してもらっている人は、外に出て自分の足で営業や人脈を広げているから応援してもらえるのだろう、部屋から出ずに「俺に気づけ」と言っている方がおかしいし、むしろ気づかれる方が怖い。
逆に言えば、家から一歩も出ず、40年間住んでいる地元にすら黙殺されるタイプの人間がそれでも地元に居座り続けながらできる、というのが、漫画家という職業の良いところかもしれない。
漫画家は、他の職業に比べれば比較的、地域格差、経済格差の影響を受けずに就ける職業である。
地域格差というのは、就きたい職種の求人が地元にない、というのもあるが、それ以前に「勉強する場所がない」というのもある。