ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第97回

ハクマン第97回
自分の特性上
スポーツ観戦は難しい。
なぜ3時間も観られたのか。

それがなぜ約3時間もサッカーの試合を見ていたのか。詳しく書くとただの誹謗中傷と罵詈雑言になって掲載できなくなるので端的に言うと、ワールドカップ開催以来、私の Twitter 上の元担当のつぶやきが妙に日本チームに批判的、そして辛辣というより冷笑的だったのである。

悔しさのあまり攻撃的になり「貴様コスタリカの手の者か!腹を切れ!」と激怒のテンションになっているならわかるのだが、終始「いやはやいつもの日本って感じ、これは負け確ですな」みたいな妙に斜に構えている上に、やる前から常に日本の負けを確信しているのである。
漫画で言えば発売前に「まあ売れないと思いますけどね」と言われている感じだ。

とにかくその予想が外れてほしい、その一心だったのである。

だが、どこも強敵だが日本の予選リーグは特に強敵ぞろいで、予選最終戦の相手スペインは超強いと聞いていたので、何とか勝ってほしいと思っていたが、難しいかもしれないとも思っていた。

しかし、朝起きてみたら皆様ご存じのあの結果である。

感動した。
見ていない分際で何を言っているのか、と自分でも思うが、とにかく感動した。
感動というよりもはや「感謝」であり「ありがとう」しかでてこなかったし、正直泣いていた。

そして改めてスポーツ選手のすごさを知った。
文字通り世界中が見ている中で好き勝手なことを言われながら、格上の相手に挑む行為自体並の精神力ではない。私なら直前で「なんかコロナっぽいっす」と言い出すだろう。
そして、厳しい、負けるかもしれないという評価の中、勝ちにいって勝つすごさである。

しかし、いくら本当に感動したとしても、見ていないのにあれこれ言うのはよくないことである。
自分の本のアマゾソ評価に★5をつけてもらっても「読んでないけど感動しました!」と書いてあったらモヤるはずである。

そんなわけで決勝トーナメントは「感謝の視聴応援」をすることにした。
夜0時開始という結構な遅い時間、何もわからないサッカーという分野、己の中にいる落ち着きのない3歳児という名の虎、すべてが格上の相手だが、日本がそれに挑んで勝ったんだから、自分もせめて挑むぐらいはするべきだ。

そして「真面目に応援すること」である。
文字通り人様の試合にもかかわらず、それにかこつけて自分がおもしろいことを言おうとしたり、安全なところから人をダシに自己主張をしてしまいがちなところがある。

 

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

ローベルト・ゼーターラー 著 浅井晶子 訳『野原』/死者たちの声は深く静かに響き合って、やがて町の歴史を織りあげる
【著者インタビュー】柚月裕子『教誨』/理不尽な事件に対して抱く戸惑いや「どうして?」を小説に描く