ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第97回

ハクマン第97回
自分の特性上
スポーツ観戦は難しい。
なぜ3時間も観られたのか。

昨日は2時間ぐらいしか寝てない。

令和にもなって睡眠不足自慢とな?と驚愕されている方も多いと思うが、これが最近流行りの平成レトロというやつだ。

しかし今日の日本には睡眠時間が短いことを嘆きながら顔のパーツを中央に寄せているやつが大量に出没していることだろう。

これを書いている日の深夜0時より、ワールドカップの日本VSクロアチア戦があったのだ。
試合は同点のまま延長戦までもつれ込みそれでも決まらずPK戦となり、日本は惜しくも敗退した。
全てが終わったのは午前3時近かったと思う。私もそれを見ていたのだ。

私のような陰キャがこんなにサッカーに興味を持つなんて珍しいと思う方も多いかもしれないが、それより「自分の性格趣味趣向を読み手が理解している前提で話してくるところが最高に腹が立つ」と思っている人の方が多いだろう。

それに陰キャだってサッカーが好きなやつは好きだというご意見もいただいた。
確かに渋谷の大型ビジョン前に繰り出すか、Twitter に「試合開始全裸待機」と書き込みながらスエット姿で一人 abema の前に座っているかの違いはあれど、サッカーを愛する心は陰も陽も同じだろう。

自分がそうだからと言って他人もそうとは限らないのだ。「×陰キャだからサッカーに興味ない」から「〇サッカーに興味がない陰キャのキモオタ」に謹んで訂正申し上げる。

だが実際、ワールドカップが始まったのにも気づかないレベルでサッカーに興味がなかったのは事実だ。
だからと言って敵視しているわけでもなく、試合結果だけ聞いて勝てば喜び負ければ残念がるという、記号と数字の羅列だけで感情を上下させるという激安運動をする予定ではあった。

そもそも私は自分の特性上スポーツ観戦というのが難しい。
まず、じっと画面を見ることができない。映画館であれば他人の目もあるし、待っていれば集中できる山場がくるとわかっているから待てる。
だがスポーツは本当に何も起こらない場合があるので、親の見たい映画に付き合わされた幼児が「いつ怪獣がでるの?」とグズりだして途中退室になってしまうのだ。
映画でも制作側の消化試合を見せられることはあるが「ここまで来たらオチまで見て Twitter に悪口を書く」という意地で最後まで見られる。

私がスポーツを見ようと思ったら、テレビしかない密室に入れるか、ストレートに「拘束」しかないのだ。

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

ローベルト・ゼーターラー 著 浅井晶子 訳『野原』/死者たちの声は深く静かに響き合って、やがて町の歴史を織りあげる
【著者インタビュー】柚月裕子『教誨』/理不尽な事件に対して抱く戸惑いや「どうして?」を小説に描く