ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第97回

ハクマン第97回
自分の特性上
スポーツ観戦は難しい。
なぜ3時間も観られたのか。

その結果「ガンバレ」以外言えることはなくなったが、本来応援とはそういうものなのだろう。

ただ、解説の本田さんの言葉の良さみが過ぎて、逐一 Twitter に書き起こしたくなる衝動は今回一番の強敵だった。

試合中は我慢したので、ここでは書かせてほしい。試合中一番好きな本田さんの言葉は「すいません全然話聞いてなかったっす」である。
それに対する実況の「ではもう一度説明します」も高得点だ。

ちなみに本田さんは私のようにコバエに気を取られていたとかではなく、あまりにも試合に集中しすぎて声が聞こえなくなっていたのだ。

 

結果は残念であったが、見て良かったし応援して良かった。この年にしてスポーツ鑑賞という新しいチャレンジをさせてくれた選手たちには改めて感謝である。

この話をすると「気持ちはわかる」としつつ「怒りすぎだし、相手が元担当だからそこまで怒っているのではないか」と言われる。

確かにその通りだ。ひろゆき自身が憎ければ例え彼が「息しないと死にますよね」と言っても「それってあなたの意見ですよね?」と半ギレで詰めたくなるのと同じであり、相手に全く恨みはないが、属性に「編集者」がついているだけで特攻200%ボーナスの怒りが付与されるのである。

今思えば、担当も最初から日本と日本のサッカーが嫌いだったのかもしれない
つまり一方的私怨に対し、さらに私が一方的私怨を燃やしているという状態だ。

感動の試合の裏で繰り広げられていた地獄のカードである。

年を取れば取るほど、負けたくないし傷つきたくなくなる。
よって、最初から戦わないか、こちらに気づきさえしていない、反撃してこない相手に一方的に攻撃をしかけ勝ったつもりになってばかりだ。

皆が見ているところで、真正面から向かって行って正式なルールで勝つというのはそれだけですごいことだ。 それを教えてくれた選手たちには何度も感謝である。

(つづく)
次回更新予定日 2022-12-25

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

ローベルト・ゼーターラー 著 浅井晶子 訳『野原』/死者たちの声は深く静かに響き合って、やがて町の歴史を織りあげる
【著者インタビュー】柚月裕子『教誨』/理不尽な事件に対して抱く戸惑いや「どうして?」を小説に描く