滞米こじらせ日記~愛しきダメな隣人たち~ 桐江キミコ 第4話 運転手付きの車⑤
寄り添い合うだけの悲しい理由があったのだ。
のちに知ったのだけれど、ジャネットは、20年近い前のこと、事故で夫と3人の子供を一気に失ったのだそうだ。ハーヴェイは、ジャネットに家族を思い起こさせるものをすべて処分させ、ニューヨークからワシントンに引っ越しさせ、以来、ジャネットは、魂を売ったみたいにハーヴェイの言うなりになっている。
綾音さんだって、両親を亡くしたあと、今まで親に養ってもらってきて、ちょこちょこやったバイト以外はまともに働いたことがないから、つい、人頼みになるのだろう、取りあえず分け前の不動産で働かないでも生活はできるけれど、財産相続の件で姉妹の間で揉(も)めている最中で、身内を敵に回しているらしい。
なんだかんだ不可解な3人組だと思っていたのだけれど、天涯孤独な3人が寄り添い合うわけがわかると、悲しくも見えた。
今になってやっと納得できるのだけれど、いつのことだったか、綾音さんと日本で会ったとき、綾音さんはファイルを持ってやって来た。
「あなたにハーヴェイがどんなにすごい人なのかわかってもらおうと思って」綾音さんは前置きを言うと、ファイルの中から古い白黒の写真を取り出した。
「これ、見てちょうだい、ハーヴェイに頼んで焼き増ししてもらったの」
見ると、カーター大統領に挨拶しているハーヴェイの大判の写真だった。
「あなた、ハーヴェイは、大統領とこうやって並んで話すことのできる人なのよ」
でも、ワシントン界隈(かいわい)に住んでいたらこういうチャンスはあるでしょう、わたしでさえ、ワシントンに住んでいたころは、大統領の就任式や副大統領公邸でのレセプションや国務長官主催のパーティに出席したこともあるんだから、と言いかけて、言わなかった。
「大統領とこうやって直に会えるようなアジア人は、当時、ハーヴェイ以外にはいなかったのよ」
そう言って、綾音さんは、惚(ほ)れ惚(ぼ)れと写真を眺めた。
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