乙一 ◈ 作家のおすすめどんでん返し 03

1話4ページ、2000字で世界が反転するショートストーリーのアンソロジー『超短編! 大どんでん返し』が売れています。執筆陣が、大ヒットを記念して、どんでん返しを楽しめる映画やアニメ、テレビドラマ、実話怪談など、さまざまな作品を紹介してくださいました! ぜひチェックしてみてください。


作家のおすすめどんでん返し 03
叙述トリックの美学

乙一 

 パスカル・ロジェという監督は変態だと思う。たぶん今の所、最高傑作は2007年の映画『マーターズ』にちがいない。『マーターズ』にもどんでん返し風味の展開はあったが、今回は映画『トールマン』を推薦したい。『マーターズ』は傑作だけど、『トールマン』の方が大どんでん返しの一点突破感があるからだ。

 

 炭鉱の町コールド・ロックで、幼い子どもたちが行方不明になる事件が発生する。人々は正体不明の誘拐犯をトールマンと名付け恐れていた。映画『トールマン』は、その事件の顛末を描いた物語だ。

 おそらく、海外のインターネットミーム【スレンダーマン】をモデルに作られた映画なのだろうと推測する。【スレンダーマン】とは、人間とは思えないほど異様な縦長のシルエットを持った存在である。ネット上でみんなで作り上げた都市伝説のようなものだ。遊んでいる幼い子どもたちを、背後から【スレンダーマン】がじっと見つめている不気味な画像が特に有名である。【スレンダーマン】は死神のようでもあり、人攫いのようにも見える。

 

 映画『トールマン』は、【スレンダーマン】というキャラクターを想起させながら、物語を進行させていく。そして意外な方向へと、映画は舵をきる。正直に言うと、世間的にこの映画はあまり評判がよろしくない。だけど僕は、この映画のねじまがっている感じが大好きだ。胸糞悪い展開と評される部分さえ面白みを抱いてしまう。

 大どんでん返しを意識した映画でよくあるパターンに「画面に登場していた特定の人物は主人公にだけ見えていた幻でした」や「映像で語られていたのは脳内イメージでした」などのオチがある。確かにおどろかされるし、楽しい。

 しかし、『トールマン』の大どんでん返しは、すこし手触りが違う。見る人によっては卑怯と感じるかもしれない。だけど僕はその部分に小説の叙述トリックのような美学を感じた。映像の嘘はつかず、演出の調整で見る者を欺く仕掛け。【スレンダーマン】をモデルにした映画なのかな、という印象さえも、振り返ってみれば罠だったと気付かされる。

 


乙一(おついち)
1978年福岡県生まれ。96年『夏と花火と私の死体』で第6回ジャンプ小説・ノンフィクション大賞を受賞し、17歳でデビュー。2003年『GOTH リストカット事件』で第3回本格ミステリ大賞を受賞。『ZOO』『銃とチョコレート』『箱庭図書館』『小説 シライサン』など著書多数。別名義でも作家・映画監督として活躍中。

超短編!大どんでん返し

『超短編! 大どんでん返し』
編/小学館文庫編集部

◎編集者コラム◎ 『扉のかたちをした闇』江國香織、森 雪之丞
◎編集者コラム◎ 『閉じ込められた女』著/ラグナル・ヨナソン 訳/吉田 薫