似鳥 鶏 ◈ 作家のおすすめどんでん返し 12
1話4ページ、2000字で世界が反転するショートストーリーのアンソロジー『超短編! 大どんでん返し』が売れています。執筆陣が、大ヒットを記念して、どんでん返しを楽しめる映画やアニメ、テレビドラマ、実話怪談など、さまざまな作品を紹介してくださいました! ぜひチェックしてみてください。
作家のおすすめどんでん返し 12
細密画のごとく
似鳥 鶏
『ロートレック荘事件』筒井康隆
「どんでん返し」をコンセプトにしたストーリーを考える際、もっとも大事なのは「派手にどんでん返すこと」ではなかったりします。派手に返すのは当たり前でして、返しただけでは「いまいち」以上の水準にならないからです。問題なのは「返したあとにどんな景色が広がるか」。
そのため書き手は、騙すための装置に過ぎないどんでんの表側より、裏側に描く絵に心血を注ぎます。裏側にはそれまで見せてきた表側よりずっと美しく雄大な景色がある。表側の絵で意味が分からなかった部分が一気に分かるようになる絵解きがある。返ったと思ったら二つに割れて手足が生えてどこからともなく飛んできた頭部と合体してロボになる。
本作のどんでんは、一見普通の構造です。複雑なネタではないため、途中で真相に気付く人も多いでしょう。ですが気付いた人は戦慄します。「マジでこれをやったの!?」と。
裏側に描かれた絵解きを見て、読者は衝撃を受けるでしょう。現れてきた真相は、たしかにそのネタはアリだ、と分かっていても、そんなことが本当にできるとは思えない、という高度な職人芸。これまで普通に眺めていた表の絵が、実は一行、一字に至るまで注意をこらして描かれた細密画であったことが分かり、思わず全ページ読み返したくなります。
そしてもう一つ。途中で真相に気付いた、という人は突きつけられます。「自分はなぜ真相に気付けたのか」。
普通、真相に気付けるのは、気付けないよりは「偉い」ことのはずです。ですがこの作品の場合、どんでんの裏側が読者に問いかけてきます。「なぜお前は気付けた?」そして価値観が反転します。「気付けてしまったのは、自分に偏見があったからではないか」。
「パソコンでホラーゲームをやっていて一番怖いのは通信が切れた瞬間。画面が黒くなって、いきなり自分の顔が映るのが一番怖い」
そういうジョークがありますが、本作はまさにそれです。本作のどんでんの裏側には絵でなく、巨大な鏡が貼り付けられている。それを覗き込んでいる読者自身の顔が突然映る。事件の真相よりも、それを眺めている自分の顔に、読者は戦慄するかもしれません。
似鳥 鶏(にたどり・けい)
1981年千葉県生まれ。2006年『理由あって冬に出る』で第16回鮎川哲也賞に佳作入選しデビュー。同作を含む「市立高校」、『午後からはワニ日和』の「楓ヶ丘動物園」などシリーズ作品多数。「戦力外捜査官」シリーズはテレビドラマ化もされた。著書に『生まれつきの花 警視庁花人犯罪対策班』『推理対戦』(8月25日発売)など。
『超短編! 大どんでん返し』
編/小学館文庫編集部