スピリチュアル探偵 第14回

スピリチュアル探偵 第14回
探偵への挑戦状か。
連載を読んだ(?)刺客登場!


「なんか教えてもらって読んだかも」

 仲介者である知人はと言えば、たまに口を挟むことはあるものの、その他は1人でスマホをいじったりするばかりで、さしたる助け舟が出る様子はありません。おかげで本題に入ることなく2杯、3杯とハイボールを重ねる僕たち。やがて、それっぽく会話が続いているように見えて安心したのか、23時をまわったところで知人は、「家が遠いので、自分はこのあたりで」と先に退出してしまいました。

 ここまでスピリチュアルな話題は一切出ていないのでどうしたものかと思いましたが、案外このタイプはサシのほうが切り崩しやすいかも。実際、2人だけになって少しすると、おかっぱ男性は初めて自分から話題を振ってきました。

「……ライターって、どんな原稿を書くんですか」

 ついに山が動いた感があり、内心でちょっと感動してしまう僕。ようやくこちらに関心を向けてくれたようです。

「基本的には経済ネタでもサブカルネタでも、なんでもやってますよ。雑誌、ウェブ、書籍が主なフィールドです」
「へえ。儲かりそうでいいなあ」
「うーん。割のいい仕事もあれば、そうじゃない仕事もありますけど」
「いいなあ、楽しそう」

「いいなあ」を連発する彼の表情に目をやると、明らかに入店当初よりとろんとしています。どうやら、いい感じに酒がまわっているようです。

「まあでも、いろんなジャンルに手を出しすぎて、雑食ライターみたいになってますけどね」
「たとえば?」
「ええと、霊能者らしき人に片っ端から会いに行ってるのなんて、最たるものでしょう。これは仕事というより趣味で始めたことですけど」
「へえ、そんなこともやってるんだ」

 ……あれ。

「ウェブでやってる連載ですよ。『スピリチュアル探偵』ってやつ」
「へえ、本当にいろいろやってるんだ」
「………」

 というか、なぜこいつはさっきからタメ口なのか。ざっくり見積もって一回りくらい僕のほうが歳上だと思うのですが。

 もっとも、序盤と違って表情が終始ヘラっと笑っているので、酒で距離感が縮まっているのだと思えばとくに腹は立ちません。それよりも、君は『スピリチュアル探偵』読者じゃなかったのか!?

「◯◯さん(先に帰った知人)から聞いてますけど、あの連載読んでくれているんでしょう?」

 直球でぶつけてみると、おかっぱ男性はすっとぼけたような表情をつくったあとに、「ああ、なんか教えてもらって読んだかも」とか、「そうか、あれかあ」などとブツブツ言いました。

 ううむ、これはどういうことか。決して当連載のファンとしてやってきたわけではないぞと、マウントを取らせないようガードを固めているのでしょうか。だとしたら面倒くさいことになってきたぞ……。

徐々にギアが上がる深夜のスピリチュアルトーク

 こうなったら、引き続き直球勝負でいくしかありません。

「僕も◯◯さん(先に帰りやがった知人)から少し聞いたんですけど、霊感のある人なんですよね?」

 互いにそれが本題だったはずですが、おかっぱ男性はこちらも見ずに「ああー」と言いながら、何杯目かのハイボールをぐいっと飲み干しました。いいでしょう。曖昧なレスですが、肯定したと判断します。

「具体的に何か見えたりするんですか?」
「うん、たまに」
「それって、幽霊みたいなヤツ?」
「うーん。よくわからないけど、何か人の後ろに視えてる」

 お。「視える」ではなく「視えてる」って言いましたよ、この人。ちょっと声をひそめて続けます。

「……もしかして、今も僕の後ろに何か視えてます?」
「うん」
「(色めき立ちながら)それは何でしょう。人間? それともオーラみたいなもの?」
「うん、どっちも視える」
「ほんとに? 僕の後ろに今、何が視えてます?」

 がっつく僕とは対照的に、相手のテンションは変わりません。

「ぼやっと光ってるけど、よくわからないなあ」
「ちょっとちょっと、よく視てみて!」
「(視ようともせず)うーん、でもそれほどでもないかも」
「え?」
「あんま光ってない」

 なんだよ、さっきオーラ視えてるって言ったじゃん!

「ええと、普段は人が光って視えてるんですか?」
「うん、光り方はその時々で違うけど」
「今日の僕は光ってないんだ」
「少しだけ光ってるけど、かなり薄い」

 なんだか「オーラがない」とディスられているようでモヤモヤしていると、彼は突然、カウンターに突っ伏すような姿勢になり、声のトーンを上げてこう言いました。

「つーか、酒飲んでるとだんだん消えるんだよなあ、光が」

 ほう、そういうものなのか。霊的なヤツと酒は相性がいいのではないかと思っていたのに。

 


「スピリチュアル探偵」アーカイヴ

友清 哲(ともきよ・さとし)
1974年、神奈川県生まれ。フリーライター。近年はルポルタージュを中心に著述を展開中。主な著書に『この場所だけが知っている 消えた日本史の謎』(光文社知恵の森文庫)、『一度は行きたい戦争遺跡』(PHP文庫)、『物語で知る日本酒と酒蔵』『日本クラフトビール紀行』(ともにイースト新書Q)、『作家になる技術』(扶桑社文庫)ほか。

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