スピリチュアル探偵 第18回

スピリチュアル探偵 第14回
新年一発目は、
〝魔女っ子〟の案内で
恐怖体験@鳥取!

輪廻転生は過去のもの!? 魔女組合からの最新情報

ちなみに怖場というのは山陰あたりの方言なのかと思いきや、そうではないらしく、単に彼女が好んで使っている用語のようです。「魔女組合の俗語みたいなもんじゃない? あはは!」とは魔女っ子の弁。いや待て待て。

「ちょっと、その魔女組合ってのは何? 魔女っ子みたいな人が他にもたくさんいるの?」

「そーそー。別に本当の組合ってわけじゃないんだけど、鳥取近辺の魔女たちとはたまに集まって話したりするよ」

そもそも魔女って何だよと思わんでもないですが、文脈からすると要はこうしてカウンセリングで生計を立てている占い師や霊能者の寄り合いらしいです。

「ちなみに皆さん、集まってどんな話をしているの?」

「近況報告とか、他愛もない話だよ」

「霊能者の近況って、めちゃくちゃ気になるんだけど」

「昨日見たテレビの話とか、夫の愚痴とか、本当に普通の話ばかり。……あ、でも。こないだちょっと面白い話題があがってたわ」

日本海に沿って国道9号をすいすい進みながら、魔女っ子はこう言いました。

「最近、生まれ変わりのシステムがもう終わったみたいなんだよね」

「え、それはどういうこと?」

「死んだあと、また別の人間に生まれ変わることがなくなったのよ。これはみんな言ってる」

「………」

仏教やヒンドゥー教の思想で有名な輪廻転生ですが、もはや今どきの魔女業界では時代遅れなのでしょうか。

「だとしたら、僕らは死んだらどうなっちゃうの?」

「うーん、それは私にはわからない」

「というか、やっぱりそもそも生まれ変わりというのはある前提なんだ?」

「うん。身体なんて、結局ただの箱だから。中身(魂)はその後も存続するよ」

「そもそも、魔女の皆さんはなんで生まれ変わらなくなったって知ってるの? 誰から教わったの?」

「それもよくわからないけど、人間とは別のもっと大きな意思からのお告げみたいなもんかな?」

うむむむ、ややパニック気味な僕。これはまともに取り合わないほうがいい話題なのでしょうか。でも、せっかくなのでもう少し頑張ってみます。

「ということは、魂はこれまで散々リサイクルされてきたってこと?」

「そうだね。でもさ、極論すれば箱は何でもいいわけだから。別に人間のこの体である必要はないんだよね」

「そういや、ちょっと前にテレビでやってたな。人間はそのうち、脳だけになって仮想空間で暮らすようになるかもしれないって。あつ森(あつまれどうぶつの森)みたいなものなのかね」

「そーそー。そのイメージが近いんじゃないかな」

魔女っ子はこともなげに言いますが、やっぱり理解が追いつくはずもなく。そうこうしているうちに、僕らは目的地に到着してしまいました。

思わずゾワッ! 怖場で僕が遭遇したのは……

そこは鳥取県中部のとある岬で、地元では有名な景勝地でした。海水が侵食して生まれた複雑な地形が特徴で、釣り人に人気のスポットなのだそう。その半面、スマホで検索してみると、このスポットを「伝説の魔境」と表現しているサイトもあったりして、怖場としても一定の知名度がある模様。

駐車場から断崖に沿って粗末な石段が造られていて、どうやら下まで降りられるようです。車を降りてから魔女っ子は「あ~、ここは本当に良くないんだけどな。大丈夫かな」とブツブツ言いだしましたが、構わず降りてみることに。

魔女っ子を先頭に、たまに藪をかき分けながら、急な石段を下っていくこと数分。眼下に少しずつ、奇岩だらけの荒々しい岩場が見えてきました。この日の波は比較的おだやかでしたが、それでも岸壁が日本海の荒波にビシビシと打たれている光景はダイナミックで、僕にとっては絶景にしか思えません。しかし――。

「ねえねえ。ここ、本当に心霊スポットなの? どちらかというと気持ちのいい景勝地じゃない」

「……そうだね」

「不穏な気配はまるで感じられないけどな。もう怖場に突入してるの?」

「………」

下の岩場に向けて石段を降り始めてから、あからさまに口数が少ない魔女っ子。なまじ普段がおしゃべりなだけに、際立っておとなしく見えます。マイナスイオンたっぷりのこの環境に、何かを感じ取っているのでしょうか。あるいは石段がキツくてしゃべるのが億劫なだけなのか。

などと考えていたら、石段の中腹くらいに差し掛かったところで突然、魔女っ子が無言のまま踵を返し、そのまま物凄いスピードで石段を駆け上がっていってしまいました。

僕はわけがわからず、「ちょっと、どうしたの? 待ってよ!」と叫びながら、同じく降りてきた石段を駆け上がります。50代とは思えぬ魔女っ子のスピードが、何かただならないことが起きたことを示しているようで、僕までちょっと怖くなってきました。

車を停めている駐車場まで戻ってきたところで、魔女っ子はぜえぜえと中腰で息を整えながら、こう言いました。

「……今の、視た?」

「え、何を?」

「階段の下のほう、倉庫みたいな石造りのスペースがあったでしょう?」

たしかに崖の下に、ブロックを積んであつらえた構造物の残骸があったのは覚えています。魔女っ子が言うには、救命具などを収納していた倉庫の名残らしいのですが……。

「あのブロックの残骸のとこに、生首が置いてあった」

「え、ええ!?」

「気づかなかった?」

「本当にそんなものが転がってるなら一大事だろ。もう一度見てくるよ」

「だめ! 絶対にやめたほうがいい!」

再び崖下に降りていこうとする僕を、必死に止める魔女っ子。いつもの陽気なキャラがウソのようにうろたえています。

「ええと、それって本物の、物理的な生首なの? それとも、視える人にしか視えない霊的なやつ?」

「私にははっきりと視えたけど、霊的なやつだと思う」

ならば、戻ったところで僕には確認しようがないわけか。もちろん魔女っ子の狂言である可能性だって否定できませんが、恐怖に怯える彼女の表情は実に迫真で、これが演技ならアカデミー賞ものです。

 


「スピリチュアル探偵」アーカイヴ

友清 哲(ともきよ・さとし)
1974年、神奈川県生まれ。フリーライター。近年はルポルタージュを中心に著述を展開中。主な著書に『この場所だけが知っている 消えた日本史の謎』(光文社知恵の森文庫)、『一度は行きたい戦争遺跡』(PHP文庫)、『物語で知る日本酒と酒蔵』『日本クラフトビール紀行』(ともにイースト新書Q)、『作家になる技術』(扶桑社文庫)ほか。

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