スピリチュアル探偵 第18回

スピリチュアル探偵 第14回
新年一発目は、
〝魔女っ子〟の案内で
恐怖体験@鳥取!

案内マップに並ぶ不穏な地名

「ああ怖かった! もう、だからここに来るのはイヤだったのよ!」

数分たって息が整うと、落ち着きを取り戻した魔女っ子は吐き捨てるようにそう言いました。連れて来られたのは僕のほうなのですが……。

「魔女っ子でもそういうの怖いんだ?」

「当たり前でしょ! 超気持ち悪かった」

「もう慣れっこなのかと思ってた」

「何度視ても慣れるもんじゃないのよ!」

ふと、駐車場の片隅に、磯釣り客向けに設置されたこの一帯の案内マップを見つけました。岬の先端、海岸線に沿って細かく地名がつけられているようなのですが、よく見てみると、このマップがちょっと変。

「平床」とか「大切石」とか「亀石」とか、磯場にありそうな名称に混じって、「引廻」とか「ツンボ屋敷」といった、どこか忌まわしさを感じさせる地名が散見されるのです。

「こういう地名ってさ、必ず何かのいわくに基づいているものなんだよね。やっぱここ、昔何かがあった場所なんだよ。ほら、この池なんて凄い名前でしょ」

気が付きませんでしたが、魔女っ子が指さした小さな池には、「血染めヶ池」なるド直球な名前が付けられています。確かに、由来が気になるネーミングです。

そうして2人で案内マップを見上げていたその時――。僕の右足のふくらはぎを、何かがサワッとなでました。

びっくりして足元に視線を落としますが、何もありません。風でしょうか。不審に思いながら隣に目をやると、魔女っ子が僕のほうをじっと見ています。そしてこう言ったのです。

「今の、気づいた?」

「……え、うん」

何に「気づいた」のか、自分でもよくわかりません。でも、彼女は何かを察している様子で、「もういいから、行こ」と僕を車のほうに促し、「絶対に振り返らないで」と言いながら早足で歩き始めました。

逃げるように車に乗り込み、僕の投宿地である鳥取市内方面へ走り出して数分ほど。ようやく魔女っ子が口を開きました。

「ふう、怖かった。やっぱあそこはヤバいわ」

「……あの。さっきの、あれ何だったのかな」

「トモキヨの足、さわられてたね」

「………」

うーん。やっぱりそういうことだったのか。じりじりとイヤ~な汗が脇ににじみます。

「魔女っ子にはしっかり視えてたんだ」

「いや、怖いからあまり視ないようにしてたよ」

「……どうしたらいいんだろう。これって連れて帰っちゃったりするやつ?」

外は日が暮れ始め、ぐんぐん薄暗さを増しています。このまま1人でホテルに泊まるなんて、考えただけでゾッとします。枕元にさっきのやつが立ってたらどうしよう。

でも、ビビりまくってる僕の心情をよそに、魔女っ子はすっかり落ち着きを取り戻しています。

「いや、大丈夫だと思うよ」

「ほんとに? 絶対に?」

「あはは! そんなに心配なら、宿についたらいったん足だけ粗塩で洗いなよ」

「粗塩なんて持ってないよ……」

「そんなのコンビニにあるでしょ。なければ最悪、冷水で流すだけでも効果あるから」

素人の僕としては、そこまで塩に全幅の信頼を寄せることはできません。でも、魔女っ子がいつものファンキーな口調に戻りつつあったので、僕もなんとなく安心し始めました。

魔女っ子の能力をもう少しひもといてみた

「いやあ、しかし大変だね。さっき僕の足をさわってきたのが何者なのか、魔女っ子は視ようと思えば視えちゃうんでしょ?」

「うん、そうだね」

「それって、その気になればいつでも視えるもんなの?」

「チューニングを合わせればいつでも」

魔女っ子いわく、ダイヤル式のラジオで周波数を合わせるような、微妙な感覚の調整によって、霊的なものが視えたり視えなかったりするのだそう。

「それでも、視たくなくても油断するとうっかり視えちゃうから、けっこうしんどいのよ」

「日常生活でも普通に視ちゃったりする?」

「するする。一番キツいのは〝添い寝〟ね」

「添い寝?」

「寝てるとき、寝返りうったら目の前にゴンッて顔があったりするの、超怖いよ!」

もう、想像するだけでおっそろしい。今回の旅ではもっと、僕の将来とか背後霊みたいなものを視てもらおうと思ってたのに。

「あいつら、基本的に構ってちゃんだから、視える人のそばにまとわりついてくるんだよね」

「魔女っ子に視えるのは霊魂だけ? たとえば人の過去とか未来とかがわかっちゃったりすることもあるの?」

「ムラはあるけど、たいてい視えるよ。番組やってたときは、毎回いろんなミュージシャンの人を視てたんだけどさ、カメラの前で言っていいことと悪いことがあるから、何かと大変だったよ」

「それは、具体的にはどんなこと?」

「相手が人気アーティストだったとして、その人がひた隠しにしている同棲相手の姿がするっと入ってきちゃうこともあるからさ。よく、『ちょっといったんカメラ止めて!』とか言ってたわ」

「……なかなかすごいね、それ」

「◯◯とか△△とか(※いずれも有名なミュージシャン)、本番終えたあとに『なんでわかったんですか!?』って、血相変えて相談に来たりしたもんね」

そうした衝撃体験を機に、音楽関係の面々がいいお客さんになってくれることもあるそうで、魔女っ子は霊能者としてなかなかの売れっ子のようです。YouTubeチャンネルでも立ち上げれば、いい小遣い稼ぎになるかもしれません。

そんな雑談をしているうちに、予約しておいたホテルの前に到着。僕は魔女っ子にお礼を言い、またの日の再会を約束して別れたのでした。もちろん、その足で粗塩を買いに走ったのは言うまでもありません。

(つづく)

 


「スピリチュアル探偵」アーカイヴ

友清 哲(ともきよ・さとし)
1974年、神奈川県生まれ。フリーライター。近年はルポルタージュを中心に著述を展開中。主な著書に『この場所だけが知っている 消えた日本史の謎』(光文社知恵の森文庫)、『一度は行きたい戦争遺跡』(PHP文庫)、『物語で知る日本酒と酒蔵』『日本クラフトビール紀行』(ともにイースト新書Q)、『作家になる技術』(扶桑社文庫)ほか。

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