スピリチュアル探偵 第3回

スピリチュアル探偵 第3回
探偵が飲めば霊能者に当たる。
ついに本物か?
京都からやってきた出張霊能者!


出会い頭の強烈な一発……!

 さて、面会予約をした当日。約束の時間きっかりに我が家のインターフォンが鳴りました。

 モニターに目をやると、案内役のTさんと一緒に、やや小柄な男性が玄関前に立っているのが見えます。そして後ろを振り返って指差しながら、Tさんに何やら耳打ちをする様子が映っていました。

 すぐに玄関を開け、軽く挨拶をしながら2人を中へ招き入れようとしたところ、先生はニコニコと微笑みながらとんでもないことを言い出しました。

「あの、エレベーターを降りてすぐのスペースのところ、1人いますね。ご存じでした?」

"1人"というのは当然、霊的なアレでしょう。もちろんご存じなわけがありません。

「え、そうなんすか?(汗)」
「うん、男性の方ですね。ここに住んでた人ではないみたいですけど」

 先ほどモニターの中で背後を指差して何やら言っていたのは、そういうことだったのか──。真に受けたわけではありませんが、ここで僕は霊能者を自宅に招くことの大きなリスクに気づいてしまいました。

(これ、家の中で同じようなことを言われたらたまらんぞ……)

 こんな活動をしておいてナンですが、僕は人一倍の怖がり屋さんなのです。知らずに霊と同居しているのであれば、そのまま知らずにいたいもの。しかしこの調子では、部屋に通した瞬間に何を言われるかわかりません。

 かといって今さら場所を変えるわけにもいかず、僕はお2人をおっかなびっくりリビングのソファへと案内したのでした。

家系図から読み取る霊的メッセージ

 幸いにして、「この部屋にも2~3人いますね」などと言われることはなく、先生はうちの飼い猫を相手にしばしデレついています。その様子からはただのおっさんにしか見えないのですが、ほどよきタイミングでカウンセリングスタートです。

「さて、どんなことをお聞きになりたいですか」
「では、まず仕事のことからお願いします。僕、フリーの物書きをやってるんですけど、このまま続けていて大丈夫ですかね?」

 これは僕にとってお決まりの質問の1つで、いわば軽いジャブのようなもの。先生は「大丈夫だと思いますよ」、「向き不向きでいえば向いています」、「ただ、仕事量は気をつけてセーブしてくださいね」などなど、まあ無難なご回答。

 続けて健康面や結婚についても話を振ってみますが、これらも耳に心地のいいアドバイスがいくつか返ってきた感じで、驚きを伴うようなコメントはありません。ただ、合間に方位学や易学らしき知識を織り交ぜながら、親身にこちらの人生を肯定してくれるので、気分よく会話が進みます。

「──あ、ただ。ご先祖供養はちゃんとしたほうがいいですね。仏壇はご実家ですか?」
「そうですね。帰った時には必ずお線香をあげるようにしてはいますが……」
「さっきからずっとね、ご先祖様が寂しがってるんですよ。毎日仏壇にお参りするのは無理にしても、お花をいけて手を合わせて、心の中で名前を呼んであげてください。それで十分ですから」

 どうやら先生は僕のご先祖様とのコミュニケーションが成立している様子。果たして、寂しがってるご先祖様というのは誰なのか。名前を呼んであげようにも、僕は祖父母までしか認識していません。

「本当はね、家系図があるといいんですよ。家系図は情報の宝庫で、血筋だけでなく、あなたがこの世でどういう役割を担うべきなのかまで読み取れますから」
「あ、それならぜひ見てください! 実は、家系図だけはなぜかうちにあるんです」

 先生いわく、家系図を見れば、その姓と系図に込められた霊的な意味合いが紐解けるのだそう。「私が今こういうことを生業にしているのも、それが与えられた役割だからです」とも言ってました。

 真偽はさておき、ようやくスピリチュアルなアドバイスにたどり着けそうです。

 


「スピリチュアル探偵」アーカイヴ

友清 哲(ともきよ・さとし)
1974年、神奈川県生まれ。フリーライター。近年はルポルタージュを中心に著述を展開中。主な著書に『この場所だけが知っている 消えた日本史の謎』(光文社知恵の森文庫)、『一度は行きたい戦争遺跡』(PHP文庫)、『物語で知る日本酒と酒蔵』『日本クラフトビール紀行』(ともにイースト新書Q)、『作家になる技術』(扶桑社文庫)ほか。

岡口基一『裁判官は劣化しているのか』/タブーなき判事の、内部からの情報発信
◎編集者コラム◎ 『おたみ海舟 恋仲』植松三十里