スピリチュアル探偵 第5回

スピリチュアル探偵 第5回
またしても東北は福島で調査!
しかも、今回は同伴で見てもらう
ドキドキの体験!?


意外なポテンシャルを発揮するマダム

 隣りではSさんが嬉しそうにソワソワしています。さすが悩めるアラサー。まるで、今日ここで人生の指針が明確に示されることが確定しているかのような、大袈裟な期待感を漂わせています。

「それでは始めましょうか」

 マダムはそう言うと、老眼鏡をかけて2枚の紙をまじまじと眺め始めました。……って、もしやこのまま2人同時にカウンセリングを受けることになるのでしょうか? いろいろ込み入ったことも聞きたいのに、全部丸聞こえなのはちょっと恥ずかしい。きっとSさんも同じ気持ちでしょう。

 ここは気を利かせて車で待っているべきだろうと、僕が立ち上がろうとした瞬間、マダムはSさんに向けてこう語り出しました。

「あなたから先にいくわね。ええと、職場に折り合いの悪い人がいるみたいね。先輩かしら? それとも上司かな」

 これには思わず、Sさんと目を見合わせてびっくり。何しろ今朝の車中で彼女は、ひたすら上司の愚痴を吐き続けていたのですから。あまりにもタイムリーな出だしです。

 ただ、「職場に折り合いの悪い人がいる」というのは、下手をすれば9割方の会社員に当てはまるでしょう。それが先輩なり上司なりである可能性も、決して低くはありません。ここはマダムの"手口"をしっかり見届けてやろうと、僕は浮かせた腰を再び降ろし、2人のやり取りに集中することに。

 すると、続けてマダムはこんなことを言いました。

「あなた、最近職場が異動したの──? そこでちょっと運気の波が変わったように見えるわね」

 あれ、あれ、あれ。これも実は、往路の車中で聞いていた話のひとつです。冒頭でSさんとは「少しご無沙汰していた」と書きましたが、これは彼女が一時的に異動していたためでした。今回、久しぶりに編集部に戻ってきたことで、こうして現場でご一緒しているわけですが、マダムはそうした人事異動の流れを把握しているかのような口ぶりです。

 これはもしかすると……。まだ自分のターンでもないのに、僕は勝手に緊張感を漲らせていました。

本物か? 偽物か? マダムとのコンゲーム

 当のSさんはといえば、こうしたマダムの言葉に、「なんでわかるんですか!」、「そうなんですよ!」、「すごい!」と、いちいち抜群の合いの手を入れています。これはマダムもさぞ気分が良いことでしょう。

 僕は僕で、隣りで少なからず驚いている半面、警戒心はMAXに達していました。というのも、もしこのマダムが手練れのインチキであった場合、直接対峙しているSさんよりも、油断している僕の反応から情報を拾おうとするのではないか、と思ったからです。

 そこで僕は、頬杖をつくような体勢で口元を左手で覆い、極力、表情を明かさない作戦に出ました。しかし、そんな僕を気にする様子は微塵も見せず、マダムはSさんとのセッションを続けています。

「あなたの場合、結婚はまだ少し先になりそうよ。ご両親もわりと晩婚だったんじゃない?」
「ええ、両親が結婚したのは、どちらも30代になってからですね」
「たぶんこれ、お見合いじゃなく恋愛結婚でしょう? すごく相性がいいように見えるのよ」
「そんなことまでわかるんですか!」
「あなたの波動は、お母さんそっくりだから、同じような流れを汲む気がするわね」

 なんというか、多少ふわりとした物言いながらも、当てずっぽうと考えるには、マダムはあまりにもリスキーなことを言っています。ここまでSさんの両親に関するリサーチはなく、インチキ霊能者であれば晩婚だの恋愛結婚だのと決めつけるような危険は冒さないでしょう。

 これまでの経験からしても、インチキほど誰にでも当てはまりそうなことばかり並べ立てるもの。それに比べ、マダムの言葉はちょっと具体的すぎるのです。本物と認定するのは早計にしても、かなりイイ線いっている印象です。

 そんな驚きを懸命に隠し、ほとんどリアクションを取らずに隣りで待機している僕ですが、マダムはまるでこちらを見ていないので、なんだかアホみたいです。

 一方、Sさんはすっかりマダムの虜になってしまったようで、熱心に恋愛相談を始めています。すると、ここでもマダムは絶好調。

「あなた、前にお付き合いされていた方と、随分ズルズルやってるのねえ。気持ちはわかるけど、あまりいいことじゃないわよ」
「えっ……。はい、そうですよね……」

 実はこれも、往路の新幹線の中で聞かされていた話のひとつ。僕から見れば体よく遊ばれただけにしか見えない元カレを引きずるSさんは、今でも都合よく呼び出されれば夜中でもほいほい彼の元に駆けつけているらしく、なんだか不憫に思えたものでした。

 うーん。元カレとズルズルというのはいかにもアラサー女性にありがちですが、それにしても指摘の精度が高い。僕は眉ひとつ動かさないよう内心の驚きを噛み殺しながら(一応まだ続けてる)、しばし2人のセッションを見守っていました。

 


「スピリチュアル探偵」アーカイヴ

友清 哲(ともきよ・さとし)
1974年、神奈川県生まれ。フリーライター。近年はルポルタージュを中心に著述を展開中。主な著書に『この場所だけが知っている 消えた日本史の謎』(光文社知恵の森文庫)、『一度は行きたい戦争遺跡』(PHP文庫)、『物語で知る日本酒と酒蔵』『日本クラフトビール紀行』(ともにイースト新書Q)、『作家になる技術』(扶桑社文庫)ほか。

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