スピリチュアル探偵 第7回

スピリチュアル探偵 第7回
あの関西弁のオバハンに会いたい!
出会いは、僕がスピリチュアル探偵を目指す前のことだった。


今こそ会いたい! オバハンよ、いずこに……

 ちなみに心当たりがあるとすれば、僕が中学生の頃に亡くなった愛犬のエリ。犬種はシェットランドシープドッグで、デザイン的にはコリーをそのまま小型にしたものです。

 ──おや? ここで内心ざわめくものを感じた僕。なんだかんだ、このオバハンの言ってることは、今のところ全部当たっているではありませんか。ヨーロッパとの縁のなさ。おじいちゃんの風貌。茶色系の飼い犬。どれもささやかにヒットしている印象です。これって意外と凄いのではないでしょうか。

 頭の中で具体的に検証してみたのは、オバハンのワンマンショーから解放された帰りの電車内でした。考えれば考えるほど、オバハンはスピリチュアル的にはリスキーな発言をしています。ここで言うリスクとは、ボロが出るリスクのことです。

 もし、我が家の祖父がどちらも健在だったなら、その時点で守護霊の話は不成立ですし、過去に犬を飼っていたこと自体、これまで彼女に話したことはありません。ヨーロッパだってわりと広いエリアですし、家族旅行などで訪れていてもおかしくはなかったでしょう。こうして1つずつひもといていくと、オバハンの言葉はどれもなかなかに果敢です。

 ただ、決定打に欠けている気がするのも事実で、まだスピリチュアル探偵稼業に目覚めていなかった当時の僕は、その後、このオバハンの能力を再検証することはしていません。というより、この打ち上げの席を設ける理由になったイベントが、彼女と協業する最後の仕事だったのです。

 今のようにSNSが存在していれば、たまに飲みに行くくらいの緩やかな関係をキープできたかもしれませんが、当時は接点がなくなれば、そのまま疎遠になるのはわりと普通のことでした。その夜以降、ちらりと姿を見かけることはあっても、オバハンと話し込んだり、お酒を酌み交わしたりする機会は二度とありませんでした。

 スピリチュアル探偵として原稿を書くようになった今こそ、あのオバハンの話を聞きたいと切に願う現金な僕。あの頃はウザがってすいませんという気持ちでいっぱいですが、もはや連絡手段はなし。今回の原稿を書くにあたり、試しにFacebookでお名前を検索してみましたが、該当する人物はヒットせず。オバハンは不思議な余韻を残して、僕の前から消えてしまいました。

 でも、あのやたら元気なオバハンのこと。きっと還暦を過ぎた今もなお、元気にお酒を飲んで笑っていることでしょう。いつか再会することがあるとするなら、その時はぜひ、スピリチュアル探偵として対決させていただきたいものです。

(つづく)

 


「スピリチュアル探偵」アーカイヴ

友清 哲(ともきよ・さとし)
1974年、神奈川県生まれ。フリーライター。近年はルポルタージュを中心に著述を展開中。主な著書に『この場所だけが知っている 消えた日本史の謎』(光文社知恵の森文庫)、『一度は行きたい戦争遺跡』(PHP文庫)、『物語で知る日本酒と酒蔵』『日本クラフトビール紀行』(ともにイースト新書Q)、『作家になる技術』(扶桑社文庫)ほか。

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