辻堂ゆめ「辻堂ホームズ子育て事件簿」第13回「対2歳戦略の見直し」

辻堂ホームズ子育て事件簿
上の娘は2歳になった。
著者の前に
子育ての壁が立ちはだかる!

 凝り固まっていたのは、私の脳だったのだ。『勉強=つまらないもの』という意識に染まっていたのを猛省するくらい、娘は新しい刺激の数々に夢中になった。

「お勉強やろっか~」と声をかけると飛んできて、いそいそと自分専用の小さな椅子に腰かける。収納の扉を自ら開け、ドリルやひらがなカードを持ってきて催促することもたびたび(幼児用の安全なものとはいえ、勝手にハサミを引っ張り出していたときはヒヤリとした)。絵本を読み終わると、嬉しそうにシールを選んでカレンダーに貼り、満足した顔で遊びに戻っていく。

 まだ始めて1か月くらいだけれど、もうひらがながいくつも読めるようになった(といっても冒頭に述べたとおり、娘は話すのが苦手なので、こちらが「『も』はどれ?」などと尋ねると、あいうえお表の該当の文字を指差すだけだけれど)。紙を持つ左手を補助すればハサミで線の上を切れるようにもなった。鉛筆で点から点を繋ぐことも。

 確かになぁ──と、そんな娘の様子を見ていて思った。私だって、例えば、何度も読んだことがある本しかない部屋に閉じ込められたら、ちょっときつい。新しい本がほしくなるだろうし、スマホでニュースサイトも見たくなるだろう。

 人間、刺激なしには生きていけない。

 知的好奇心の充足は、その一つだ。そして2歳にもなると、すでにその萌芽は備わっている。ろくに喋れないからと侮ってはいけないのだと、今回のことで学習した。もちろん、娘の場合はたまたま鉛筆やひらがなに興味を示しただけで、与える刺激はスポーツでもいいし、絵画でもいいし、ダンスや歌でもいいのだろうけれど。

 惜しむらくは、この15分の集中タイムを「お勉強」と呼び始めてしまったことだ。いずれマイナスイメージがついてしまうであろうこの言葉ではなく、別の名前をつけたほうがよかったかもしれない。「親子のふれあいタイム」とか。なんか違うか。このまま「勉強」を好きになってくれたら人生がうんと楽になりそうだけれど、そう上手くはいかないに決まっている。勉強はつらい。母はよぉーく知っているのだ(えっへん)。

 さて、今回「お勉強」をきっかけに自分専用の机がリビングに設置されたことで、娘がお絵かきや塗り絵にハマりまくっている。そしてその大量の裏紙を私が回収し、小説のアイディア出しや簡単なプロット作りに使っている。カラフルなことこの上ない。

 ここまで長々と書いてきて、生後3か月の息子の話を何一つしていないことに気がついた。ごめんよ息子。第2子にも同じくらい目を配ってあげようと決めていたのに、どうしてもやんちゃな上の子に気を取られてしまう。

 それもすべて、息子があまりにいい子すぎるからだ。大人の顔を見てはニコニコ。ベビーベッドで回転メリーを見ながら勝手にスヤスヤ。母乳もミルクもゴクゴクゴク。娘がそのくらいの月齢の頃には、毎夜噴水のようにミルクを吐き出されて涙目になったり、寝かしつけで腱鞘炎になりかけたりしていた記憶があるけれど……。

「親が子どもに甘やかされている状態だよね」とは夫の言葉。本当に、そのとおりです。

(つづく)


*辻堂ゆめの本*
\祝・第24回大藪春彦賞受賞/
トリカゴ
『トリカゴ』
東京創元社
 
\第42回吉川英治文学新人賞ノミネート/
十の輪をくぐる
『十の輪をくぐる』
小学館

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辻堂ゆめ(つじどう・ゆめ)

1992年神奈川県生まれ。東京大学卒。第13回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し『いなくなった私へ』でデビュー。2021年『十の輪をくぐる』で第42回吉川英治文学新人賞候補、2022年『トリカゴ』で第24回大藪春彦賞を受賞した。他の著作に『コーイチは、高く飛んだ』『悪女の品格』『僕と彼女の左手』『卒業タイムリミット』『あの日の交換日記』など多数。

【著者インタビュー】高殿円『コスメの王様』/明治大正期の神戸花隈を舞台に、東洋の化粧品王を描く
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