辻堂ゆめ「辻堂ホームズ子育て事件簿」第13回

辻堂ホームズ子育て事件簿
上の娘は2歳になった。
著者の前に
子育ての壁が立ちはだかる!

 2022年3月×日

 絶対に言葉を話したくない娘 VS 絶対に言葉を話させたい母。

 最近娘は、私にクレヨンを手渡してきて果物の絵を描かせることにハマっている。そこで先日、こんな攻防戦を繰り広げた。

娘「はぁい!(サザエさんのイクラちゃん風に言いながらクレヨンを手渡してくる)」
私「えー? なにー?」
娘「んー!!(なかなか描いてもらえないことに激怒する)」
私「なんだろう~」
娘「んんんー!!!!(クレヨンを私の手にぐいぐい押しつけてくる)」
私「ちゃんと言ってくれないと分からないな~」
娘「…………りんご」

 勝者は母であった(大人げない)。

 2歳にしては言葉の遅い娘、「りんご」を皮切りにようやくいくつか単語を口にするようになった。ただ、語彙が非常に少ない分、私たち夫婦の口癖が外でバレそうでひやひやする。例えば、0歳の弟を見て「かわいい~」とか。親バカが露呈するのでやめてほしい。

 というわけで、この連載が始まってから早1年が経ち、娘もだいぶ大きくなってきた。

 ……そしていろいろと、以前と同じ子育て方法では壁にぶち当たり始めた。

 まず、子どもの面倒を見ながら仕事をする、ということがなかなか難しくなった。今や娘には自我がある。やりたいことが明確にあり、その目的を達成するために私という存在を効果的に利用しようとする。「お絵かき帳をカラフルな果物でいっぱいにしたいから親に描いてもらおう!」とか、「積み木を高く積めるのを褒めてほしいから親を隣に座らせておこう!」とか。四六時中繰り出されるそれらの要求を拒否するとどうなるか。全力で泣き叫ばれる。目的達成まで絶対に泣き止まない。まるで仕事を続けようとする私が人でなしのようになってしまう。

 育児は子どもが動き回るようになってからが大変、という話は以前から耳にしていて、といっても1歳台まではそれほど実感がなかったのだけれど、最近ようやく、自分の考えが甘かったことを思い知った。なるほどこういうことか。確かに、これでは仕事にならない。

 そこで、週2回だった娘の保育園を週3回に増やすことにした。そして、これまで週5日を費やしてちょこちょこと進めていた仕事を、週3日で終わらせてしまうことにした。1日あたりの仕事時間はこれまでの倍近くになるけれど、娘が保育園に行っている時間に加え、子どもたちが寝静まった夜の時間も執筆に充てれば、不可能ではない。


*辻堂ゆめの本*
\祝・第24回大藪春彦賞受賞/
トリカゴ
『トリカゴ』
東京創元社
 
\第42回吉川英治文学新人賞ノミネート/
十の輪をくぐる
『十の輪をくぐる』
小学館

 『十の輪をくぐる』刊行記念特別対談
荻原 浩 × 辻堂ゆめ
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『十の輪をくぐる』刊行記念対談 辻堂ゆめ × 荻原 浩

\毎月1日更新!/
「辻堂ホームズ子育て事件簿」アーカイヴ

辻堂ゆめ(つじどう・ゆめ)

1992年神奈川県生まれ。東京大学卒。第13回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し『いなくなった私へ』でデビュー。2021年『十の輪をくぐる』で第42回吉川英治文学新人賞候補、2022年『トリカゴ』で第24回大藪春彦賞を受賞した。他の著作に『コーイチは、高く飛んだ』『悪女の品格』『僕と彼女の左手』『卒業タイムリミット』『あの日の交換日記』など多数。

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