辻堂ゆめ「辻堂ホームズ子育て事件簿」第13回「対2歳戦略の見直し」

辻堂ホームズ子育て事件簿
上の娘は2歳になった。
著者の前に
子育ての壁が立ちはだかる!

 保育園に行く日が1日増えたとはいえ、家にいる間は私にずっと構ってもらえる娘はハッピー。貴重な夜のプライベートタイムが犠牲になるものの、泣き叫ばれずに執筆に没頭できる私もハッピー。スケジュール変更により、晴れてWin-Winの妥協点を見つけることができた。これまでは書きたかったシーンの途中で仕事を終えることも多かったのだけれど、1日あたりの執筆枚数が増えたことで、キリのいいところまで原稿を進められるようにもなった。

 せっかく時間の自由が利く仕事をしているのに、どうしてもっと早くこうしなかったのだろう。「平日は毎日、定時内に働くもの」という会社員時代の意識にとらわれ続けていたから、のような気がする。「子育て」と「定時」なんて、最も相性の悪い組み合わせに違いないのに。

 仕事時間の変更のほかにも、改善を迫られたものがある。

 娘との遊びの内容だ。2歳になってから、あれだけ好きだったテレビに、娘が以前ほど興味を持たなくなってきた。どうやら、「いないいないばあっ!」も「おかあさんといっしょ」も、同じような内容ばかりで飽きてきたようだ。さすがに録画を見せすぎたか。いろいろ買い揃えたおもちゃも、徐々に求心力を失いつつある。うーん、でも新しいおもちゃを無限に増やすことはできない。どうすれば、娘を退屈させず、楽しませてあげられるのか?

 そこで閃いた。

 試しに、ほっぽり出していた幼児向けの教材を見せてみようか。

 もしかしたら、そろそろ興味を持つかも……?

 以前書いたように、私自身は生後11か月でひらがなを理解するようになるなど、母による熱心な早期教育を受けて育った。だから自分の娘にもやってあげなきゃ、と焦りを覚えつつ、自分も仕事で忙しいなか早期教育にまで手を出す意味が見出せず、これまで教育らしい教育はしてこなかった。無理に教え込まなくても、時期がきたらやるようになるわけだしなぁ……と。

 つまりはやる気がゼロだったのである。

 そんな中、夫が自身の幼児期について語っていたことが、考えを改めるきっかけになった。

 やることがなくて、暇でつまらなかった、というのだ。私自身は抱いたことのない感覚だった。「まだ幼児でしょ? そんなことある?」と首をひねったものの、記憶は確かだという。

 もしかして、バランスの問題なのか?

 子どもの意思を無視して教え込みすぎるのもよくないけれど、親が早期教育に興味がないからといってそうした教材に触れる機会を与えないのも、子どもの知的好奇心を阻害することになる……?

 そんなことをつらつらと考えた結果、1日に15分の「お勉強」を日課にしてみることにした。メニューは、物の名前やひらがなを覚えるためのフラッシュカードを5分、「えんぴつ」「はさみ」といった名前の市販の幼児用ドリルを5分、絵本の読み聞かせを5分。嫌がったら無理にやらせることはしない。カードやドリルの種類や順番も、時間配分も、ある程度はこちらがコントロールしつつも、基本的には娘の興味が赴くまま、好きなようにやらせる。すべて終わったら、カレンダーにごほうびシールを1枚貼る。普段の遊びと切り離して集中できるように、幼児用の小さな机と椅子も買ってみた(なぜ15分なのかというと、幼児の集中力の最大値がこれくらいなのではないかと思ったからだ。大人だって、60分から90分くらいが限界だというし。あまり長時間になると、親だって付き合いきれない)。

 これがまあ、大成功だった。


*辻堂ゆめの本*
\祝・第24回大藪春彦賞受賞/
トリカゴ
『トリカゴ』
東京創元社
 
\第42回吉川英治文学新人賞ノミネート/
十の輪をくぐる
『十の輪をくぐる』
小学館

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「辻堂ホームズ子育て事件簿」アーカイヴ

辻堂ゆめ(つじどう・ゆめ)

1992年神奈川県生まれ。東京大学卒。第13回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し『いなくなった私へ』でデビュー。2021年『十の輪をくぐる』で第42回吉川英治文学新人賞候補、2022年『トリカゴ』で第24回大藪春彦賞を受賞した。他の著作に『コーイチは、高く飛んだ』『悪女の品格』『僕と彼女の左手』『卒業タイムリミット』『あの日の交換日記』など多数。

【著者インタビュー】高殿円『コスメの王様』/明治大正期の神戸花隈を舞台に、東洋の化粧品王を描く
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