辻堂ゆめ「辻堂ホームズ子育て事件簿」第1回「自分で決めた産休・育休」
『十の輪をくぐる』で大注目!
一風変わった作家の育児エッセイ、
一風変わった作家の育児エッセイ、
連載スタートです!!
2021年3月×日
「子育てエッセイの依頼とか、来ないんですか?」
2020年2月。産後2週間健診で、助産師さんから突如、そんなことを言われた。
私が出産したのは規模がそこそこ大きい病院で、産科のお医者さんも助産師さんも覚えきれないほどたくさんいる。6日間の入院中も、昼と夜とで入れ代わり立ち代わり、毎日違う助産師さんが私の部屋の担当になっていた。でもやっぱり、自分と娘の面倒を半日見てもらうのだから、一回でも担当してもらった方の顔は忘れない。産後2週間健診でお会いしたのは、どう考えても初対面の助産師さんだった。
だから、質問を聞き間違えたのかな、と思った。
その直後に思い出した。そういえば入院中、娘が寝ている間にベッドテーブルの上でノートパソコンを開いていたら、様子を見にきた担当の助産師さんに見つかってしまったことを。たくさんの文字が並んだワードファイルに不思議そうな顔をされ、「お仕事ですか?」と訊かれたため、実は小説家なのだと明かしたことを。
ということは、噂を聞いたんだな。
冒頭の会話の際は、そう思っただけだった。けれど産後1か月健診で、別の男性のお医者さんにも「執筆は順調ですか?」と訊かれ、さすがにおかしいと感じた。えー、これ、絶対電子カルテか何かで情報共有されてるでしょ。
とうとう来ましたよ、とあの助産師さんに伝えたい。子育てエッセイの依頼が、小学館から。
*辻堂ゆめの本*
\第42回吉川英治文学新人賞ノミネート/
\第42回吉川英治文学新人賞ノミネート/
1992年神奈川県生まれ。東京大学卒。第13回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し『いなくなった私へ』でデビュー。2021年『十の輪をくぐる』が第42回吉川英治文学新人賞候補となる。他の著作に『コーイチは、高く飛んだ』『悪女の品格』『僕と彼女の左手』『卒業タイムリミット』『あの日の交換日記』など多数。