人と向き合うということ

まっすぐぶつかっていく姿は自然と応援したくなります。
書店員名前
岩瀬書店富久山店プラスゲオ(福島) 吉田彩乃さん

 昔を振り返ったりすることありませんか? 学生の頃憧れていた人、くだらない話ばっかりしてた友人、苦手だった先生、思い出すといろんな人と関わってきたんだなあと感傷的になってしまいます。今まで出会ってきた人と同じくらいいろんな感情にもぶつかってきたと思います。それは愛情だったり友情だったりしますが、そんな言葉では表せない感情も時にはありますよね。

『友情だねって感動してよ』(小嶋陽太郎)

『友情だねって感動してよ』(小嶋陽太郎)
新潮社

 象の滑り台がある公園を中心に6つの青春が詰まった短編集です。学生だなぁ、青春だなぁ、切ないなぁという話もあれば、大人よりもシビアな関係に驚いたり、大人なのに子どもみたいに純粋な恋心にドキドキします。青春をもう一度味わいたくなるのと、読んでいるうちに気になってしかたがない、象のいる公園に行ってみたくなります。

『正しい愛と理想の息子』(寺地はるな)

『正しい愛と理想の息子』(寺地はるな)
光文社

 長谷眞、通称ハセ。沖遼太郎、通称沖。2人はコンビを組んで違法カジノで働いたり、偽物の宝石を売ろうとして逆に騙され、無一文になったうえ借金で崖っぷち。どうにかお金を、と考えた2人のターゲットは商店街にたむろする老人。きっとさびしさを感じているだろうと考えた2人は老人相手に「親孝行ごっこ」を始めます。老人を騙すというテーマに嫌だなとも思いますが、不器用で詐欺師になりきれない2人がなんだか憎めなくなってきます。暴力や借金、介護や孤独など重いイメージですが、最後はきっと温かく優しい涙が流れる作品です。

『美しいこと』(木原音瀬)

『美しいこと』(木原音瀬)
講談社文庫

 別れた恋人の服を着て女性の姿で周りからの視線を浴びることに悦びをかんじる松岡。そんな彼はピンチから救ってくれた男性に惹かれますが、彼の目に映るのは女性としての松岡。彼が好きなのは自分であって自分ではないという葛藤と戦いながらも一途に思い続ける姿に胸が苦しくなります。男性が男性に恋をするという話で、苦手な方もいると思いますが、この作品は最高に純粋な恋愛小説です。好きな人に好きになってほしいと思うことは男女に関係ない感情です。自分の気持ちにまっすぐにぶつかっていく姿に自然と応援したくなります。恋愛に臆病な人に勇気をくれる作品かもしれません。
 

〈「きらら」2019年5月号掲載〉
 
◎編集者コラム◎ 『小説 ホットギミック ガールミーツボーイ』(豊田美加 原作/相原実貴 脚本・監督/山戸結希)
上野千鶴子を知るための「おすすめ本」4選