思い出の味 ◈ 河﨑秋子

第13回
「銀河鉄道のお菓子」
思い出の味 ◈ 河﨑秋子

 児童書や絵本では、おいしそうな食べ物が登場する作品は人気が高いという。私も、『ちびくろ・さんぼ』のホットケーキやモモちゃんシリーズに出てくるとろとろのおかゆさんに憧れたものだ。

 その中で、強く記憶に固定されてしまった食べ物がある。宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に出てくるお菓子だ。鳥を捕る人が主人公たちに与えた「鳥のお菓子」は、チョコレートよりもおいしくて、食べるとぽくぽくという食感らしい。がぜんその味が気になるが、もちろん実在はしない。だからこそ "とてもおいしいはずの思い出の味"ベスト1として、私の中で君臨し続けていた。

 大人になっても、あのお菓子はどんなものだろうかと時々考えていた。チョコレートよりも、ぽくぽく、というキーワードから、外国産の(あまりお高くない)少し粉っぽいチョコレートが近い気がした。しかし最近、それを上回る理想の味に辿りつくことができた。

 コンビニで偶然見つけた"ミルクケーキ"というのがそれだ。白くて薄くて短冊状をして、ぽきっと割れる。ケーキというか洋風落雁といった感じだ。味は牛乳を煮詰めたような風味とまったりした甘さ。人によってはチョコレートよりもおいしいと言えるだろう。まさしく理想。

 ネットで調べてみると、どうやら山形で昔から親しまれているお菓子を、大手販売会社が全国販売しているようだ。作り方考察も各種出ていたので、実際に作ってみた。

【以下、複数の作り方を自分なりに総合】

 スキムミルクと練乳を重量比一対一・三で練る。オーブンシートで挟んで平たくのばし、電子レンジで一分弱加熱。温かいうちに短冊状に切り分け、乾燥させて完成。

 シンプル。かつ、手作りの方が理想の"ぽくぽく"感が出てくれる。かくて私は思い出の味を実際に作ることに成功したのだが、難点は家族と客による消費が早いことだ。次々手が伸びては消えていく。

 思い出の味は万人受けしすぎるようだ。

河﨑秋子(かわさき・あきこ)

羊飼い・作家。1979年北海道別海町生まれ。2014年に三浦綾子文学賞を受賞した『颶風の王』でデビュー。同作で15年度JRA賞馬事文学賞を受賞。他の著書に『肉弾』がある。

〈「STORY BOX」2018年11月号掲載〉
ほろり、泣いたぜ『くわえ煙草とカレーライス』
柏井 壽 × 伽古屋圭市〈美味しい対談〉五感を使って、味を書く。