◎編集者コラム◎ 『突きの鬼一 春雷』鈴木英治
◎編集者コラム◎
『突きの鬼一 春雷』鈴木英治
シリーズ第3弾『突きの鬼一 赤蜻(あかとんぼ)』の当コラム(こちら)で愛猫ハナの近影を掲載しましたが、もう二匹いました。三匹とも拾い猫だそうですが、物書きらしく身なりに拘泥しない飼い主に似ず、みんな小綺麗(失礼!)。
第6弾は大好評「鬼一シリーズ」前半のクライマックスともいうべき作品、というわけで、お読みいただく前に、これまでのおさらいをしておきましょう。
舞台は尾張徳川家の北隣に位置する美濃北山三万石という架空の小藩。藩主は博打に目がない百目鬼一郎太(どうめきいちろうた)二十八歳。北山藩は特産の寒天が藩の財政を底上げして、実収十万石。だが、年貢は依然として六公四民で、藩は百姓の犠牲の上に胡坐をかいていた。そこで一郎太が百年の計として年貢半減令を打ち出すが、これが大誤算。一郎太は城下外れの賭場で実母桜香院(おうこういん)と結託した国家老・黒岩監物(くろいわけんもつ)が放った暗殺隊に襲撃される。〝秘剣滝止(たきどめ)〟の遣い手にして、〝突きの鬼一〟と異名をとる一郎太は三十人近くを斬り捨てて虎口を脱するが、襲撃者の中に年貢半減令に賛同していたはずの、城代家老・伊吹勘助(いぶきかんすけ)の倅・進兵衛(しんべえ)がいたことに愕然とする。家臣の本音を読み誤った一郎太は藩主の座を降りることを即刻決意、桜香院が偏愛する弟・重二郎(しげじろう)に後事を託して江戸へ向かう。
途中、中山道板橋宿の手前で追い剥ぎに襲われていた駒込土物店(こまごめつちものだな)の差配・槐屋徳兵衛(さいかちやとくべえ)を助けた縁で根津に家作を借り受け、江戸家老・神酒五十八(みきいそや)の嫡男で、一郎太の供をつとめる藍蔵(らんぞう)とふたり、江戸暮らしを始める。徳兵衛は神君家康とともに江戸にやってきた草創(くさわけ)名主の家柄で、北町奉行所の定廻り同心・服部左門(はっとりさもん)とともに町の揉め事をおさめる、なかなかの人物だ。日々の賄いは徳兵衛の一人娘・志乃(しの)が精魂込めて支度する。至れり尽くせりの江戸暮らしに、つい気も緩み、江戸賭場八十八か所巡りを企てる一郎太。
一方、監物の命を受け、忍びの頭領・東御万太夫(とうみまんだゆう)が放った〝羽摺り四天王〟とその頭・黄龍が虎視眈々と一郎太の命を狙い始める。迎え撃つ一郎太、神酒藍蔵、五十八の配下・興梠弥助の三人衆。
だが、事態は思わぬ方向に転じる。北山藩の財政は、伊豆国諏久宇の飛び地に産する良質の天草から作る寒天収入に支えられていた。桜香院が跡目相続の御沙汰を得んと、こともあろうに、幕府に飛び地返上を申し出たというのだ。城下の寒天問屋から多額の賄賂を手にしていた監物が拱手傍観するわけがない。さっそく密談をかわす監物と万太夫。
時あたかも、重二郎の一粒種・重太郎が病に倒れる、の報に接した桜香院は慌ただしく甲州街道を国元へ向かう。道中、母の命が危うい。万太夫はどこで仕掛けてくるのか。一郎太と藍蔵の、一瞬たりとも気の抜けない警固の旅が始まる。
と、ここまでが、5作までのあらすじ。どうです、そそられる物語ではありませんか。
万太夫の恐るべき秘術、迎え撃つ一郎太〝秘剣滝止〟の神髄! 怒濤のクライマックスを是非ともご堪能ください。
えっ、「突きの鬼一シリーズ」もこれで見納めか? いえいえ、とんでもありません。あの鬼のような担当者が作者に安楽な日々を容認したとあっては、鬼担の名がすたる。これはあくまでシリーズ前半の山場。後半は槐屋徳兵衛の薫陶を受け、人間としてさらに大きく成長する一郎太の江戸暮らしが始まります。江戸賭場八十八か所巡りはつづくのか、藍蔵と志乃の恋物語は成就するのか。どうぞ、ご期待ください。
──『突きの鬼一 春雷』担当者より