文学的「今日は何の日?」【7/13~7/19】

あの名作が世に出た日。
憧れのヒロインの誕生日。
かの大作家の失恋記念日。
……そう、毎日が何かの記念日です。さて、今日は何の日でしょうか。
7月13日から始まる1週間を見てみましょう。

7月13日

市議会議員宅の屋根から女性が転落するのを目撃――ラディゲ『肉体の悪魔』

コクトーが認めた天才作家レイモン・ラディゲ。デビュー作『肉体の悪魔』は、早熟な15歳の少年「僕」と年上の人妻マルトの道ならぬ恋を描いてベストセラーとなりました。1914年の大革命記念日の前日(7月13日)、12歳の「僕」は、市議会議員宅の屋根の上にお手伝いの女性がいるのを発見します。正気を失った様子の彼女は、救助に駆け付けた消防隊員に瓦を投げつけるなどした挙句、屋根から転落。この事件は「戦争という奇妙な時期のことをよく理解させてくれる」出来事として、「僕」の記憶に残ります。その事件から3年後、マルトとの運命の出会いが……。20歳で世を去った天才作家の、衝撃のデビュー作です。


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7月14日

竹本健治『匣の中の失楽』で倉野が曳間の死体を発見する

日本探偵小説における三大奇書に続く「第四の奇書」と呼ばれる、竹本健治『匣の中の失楽』。推理小説マニアのグループの1人・ナイルズこと片城かたじょうなるが書く実名小説『いかにして密室はつくられたか』と、現実世界の描写が行き来するなか、現実世界でナイルズの小説通りの密室殺人事件が起きてしまいました。7月14日、同グループの倉野貴訓たかよむが自分のアパートの一室で、同じくメンバーの曳間了の死体を発見するのです。通報のために慌てて部屋を出た倉野は、つい先ほどアパートの玄関にあった2足の靴のうち1足が消えているのに気づきますが……。発表から40年を経て、今なおアンチ・ミステリーの傑作の名をほしいままにする、竹本健治の代表作です。


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7月15日

竹取の翁、月を見上げて物思いにふけるかぐや姫を見舞う

竹から生まれたかぐや姫のお話『竹取物語』を知らない人はないでしょう。美しく成長した姫は5人の公達を始め、帝からも求婚されますが、いずれも受け入れようとはしません。それから3年がたった頃、姫は月を見ては泣くようになりました。7月15日、竹取の翁は心配のあまり姫を見舞い、「何を思い悩んでいるのですか」と尋ねますが、姫は「なんとなく心細く思う」と答えるのみ。実は姫は月の都から来た人で、8月15日に迎えが来たら月に帰らなくてはならないとわかったのは、もう間もなくその日が来ようという頃でした。日本最古の小説とも、最古のSFともいわれる古典作品です。


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7月16日

座敷を飛び出したお力、結城朝之助に呼び止められる――樋口一葉『にごりえ』

明治の女性作家・樋口一葉の代表作『にごりえ』は、丸山福山町(現在の東京都文京区西片・白山のあたり)の銘酒屋街が舞台。菊の井の酌婦・お力は器量も気立てもいい、店の一枚看板。結城朝之助という上客がいますが、かつての馴染客・源七のことが気にかかっていました。源七は妻子がありながらお力に入れあげて自分の店を失い、今は貧乏暮らしです。7月16日、突然座敷を飛び出したお力は、結城に呼び止められて店に戻り、初めて切ない身の上を聞かせます。一方、零落しながらもお力を忘れられない源七は、幼い息子がお力から菓子をもらったことで妻と口論。息子と共々追い出してしまいます。いよいよ行き場のなくなった源七は……。「濁った水」のような底辺を生きる人々を描く、一葉の名作です。


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7月17日

浅田次郎『流人道中記』で、切腹を拒否する旗本に永年お預けの沙汰が下る

姦通の罪で切腹を申し付けられるも、「痛えからいやだ」と拒否した旗本・青山玄蕃。「三河以来」の名門旗本を打首にもできず処分に窮した幕府は、万延元年7月17日、闕所改易のうえ松前伊豆守方へ永年お預けの沙汰を下しました。津軽の三厩みんまやまで玄蕃の押送を命じられた見習与力・石川乙次郎の旅を描く、浅田次郎の時代小説『流人道中記』。まっすぐな気性の乙次郎は、玄蕃の罪状や無頼のような態度に嫌悪感すら抱きますが、道中を共にするうちに玄蕃の大身の旗本らしい品格、諸芸に秀で、世故に長けた器量人ぶりに気づくようになり……。旅路の果てに明らかになる玄蕃の真実に、胸を打たれずにはいられません。


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7月18日

ホールデン・コーフィールドの弟アリーが死去――『キャッチャー・イン・ザ・ライ』

成績不良で高校を退学処分になった16歳の少年ホールデン・コーフィールドのさまよえる青春を描いたJ.D.サリンジャーの代表作『キャッチャー・イン・ザ・ライ』(『ライ麦畑でつかまえて』)。1946年7月18日、ホールデンの2つ下の弟アリーが白血病で亡くなりました。ルームメイトのストラドレイターから代筆を頼まれたホールデンは、守備についている間に読むため野球のミットに詩を書き込んでいた、というアリーの思い出を、ストラドレイターの弟の話として作文に書きます。成績不良のホールデンですが、作文だけは得意だったのです。しかしストラドレイターは作文の出来を気に入らず、2人は大喧嘩に……。今なお世界中の若者から熱烈に支持される、青春小説の傑作です。


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7月19日

島本理生『ファーストラヴ』で、主人公・聖山環菜が殺人容疑で逮捕される

島本理生が現代の家族の闇を掘り下げ、第159回直木賞を受賞したミステリー小説『ファーストラヴ』。テレビ局のアナウンサー志望の女子大生・聖山ひじりやま環菜かんなは、平成28年7月19日、都内でキー局の二次面接に臨みますが、体調を崩し途中で辞退。数時間後に二子玉川の美術学校で、同校講師の父・那雄人なおとを刺殺し、血まみれで多摩川沿いを歩いていたところを逮捕されました。「動機は自分でも分からないから見つけてほしいくらいです」という環菜。事件について取材を進める臨床心理士の真壁由紀と、由紀の義弟で環菜の国選弁護人を務める庵野迦葉は、互いが環菜から聞いた話に食い違いがあることに気づき……。


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初出:P+D MAGAZINE(2020/07/13)

〈第7回〉加藤実秋「警視庁レッドリスト」
◎編集者コラム◎ 『突きの鬼一 春雷』鈴木英治